「あんたさー、沢田といてなんになるの?」

そう、一番仲のよかった友達に言われたのは中学3年の冬。
受験シーズンも中盤に差し掛かったところで、この頃には薄々と、彼が高校に行かないということがばれていた。
だからこその発言だっただろう、強気の言葉の中に心配の文字が見え隠れしている友達を、しばし私は無言で見つめて、笑った。




 

 

 

 

 



Vita quotidiano a











 

 


「・・・」

ボンゴレファミリーのボス専用執務室のドアを開けると、冬の柔らかな午後の日差しが淡い色のレースカーテンを透けてキラキラと踊っているのが真っ先に目に入る。
本来ならファミリーの首領たるボスの執務室に窓はない――例えここがファミリーの総本山の奥の奥で警備が厳重で、尚且つ腕利きのヒットマンが用心棒で常に影から見守っているとしても、何時如何なる時場合状況によって窓から狙撃されるかもわからないからというあまりにも用心深い思考の元に、通常のファミリーであるならばボスが生活の大半をすごす専用執務室は四方を壁に囲まれている――のだが、ボンゴレのボス専用執務室には立派な窓と洒落た白磁器を思わせる色合いのバルコニーがついていた。

「・・・」

何故ボンゴレのボス専用執務室には日当たりのいい窓と白くきれいなバルコニーがついているのかを以前、ずいぶん古株の幹部に世間話程度で質問したことがあったのだが、何のことはなくて、ただ単に四方を壁に囲まれた部屋にいると息が詰まって仕事ができないという理由で、何代目かのボスが(ここら辺は何故かはぐらかされてしまった。もしかしたら先代かもしれない)客間として使用していた部屋の中身をごっそり入れ替えて執務室にしてしまったのだとか。
そして本来のボス専用執務室は現在、資料保管庫として役割を担っている。




だから決して、その日当たりのいい窓と白いきれいなバルコニーは"休憩"と書いて"サボリ"と読むような作業をするためにあるわけではない。




「・・・はぁ」

私は白いバルコニーの柵にだらしなく両肘をつく、冬の柔らかな午後の日差しをキラキラはじく茶色の髪と、あまり風はないのかゆらゆらと立ち上る紫煙を認めて、とうとうため息をついた。
チラッと、今は彼専用となっている濃い鼈甲色のどこかルネサンスを思わせる木の机の右端にまるで、もって帰らないけどロッカーにしまうのも面倒くさいからと積つまれた教科書のように、どこか哀愁を漂わせている若干よれた書類の束と「あーあ、やんなっちゃった〜」といわんばかりにペン先だしっぱなしで机の上に転がっている青い万年筆を見て、私はもう一度、今度は右手を額にやりながらため息をついた。

ボンゴレファミリーの正式な10代目になって間もない頃は、サボることのなかった彼――というよりも、例の最強ヒットマンにして最凶の家庭教師である生きる伝説がサボらせなかった――だが、最近は隙を見ては必ず休憩という名のオサボリタイムを取る。
その割りに仕事が滞るわけではないので、おそらくは要領よくやっているのだろうが、そのことが彼を以前の"ダメツナ"から遠く遠く脱却させてしまっていて、喜ばしい事なれどもどこか物寂しさを感じてしまう。

喫煙にしてもそうだ。
スモーキン・ボムという二つ名を世に轟かせている右腕を持つ彼のことだから、いつかは興味本位で手を出すんじゃないかと思っていたのも事実ではあったけれども。
吸っているのを見つけたのはつい2、3年前だが、その時にはすでに堂に入った吸い方をしていたので、はじめたのはまだ10代目"候補"だったときのことなんだろうなぁ、とどういうわけだか妙にさびしくなったのを覚えている。

「はぁ・・・」

私は再度ため息をついてから、窓へと足を踏み出しその冬の柔らかな午後の日差しの透ける淡いレースカーテンの隙間から真鍮の取っ手に手をかけた。
もちろん、この真冬の寒空の下で喫煙している大ばか者に一言二言小言を言ってやってから、つかれているだろうからと用意したあったかいエスプレッソを手渡すために、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 


カチャリと小さな音を立てて、窓はあっさり私をバルコニーへと導いた。
イタリアの冬は強い木枯らしが吹くことはあまりないが、それでもやはり寒い。
ローマの街中は今ならたぶんセーターだけでも歩けないことはないだろうがしかし、ここはあいにくローマでも街中でもなかった。
私は一瞬ぶるりと身を震わせて、白磁器を思わせる色合いのバルコニーへ足を踏み入れ彼の隣へと歩みを進めながら、口を開く。

「まったく、なにやってんの。書類ほっぽって」
こそ、この寒空の下どうしたの」

驚かないところを見ると気づいていたらしい。
肩越しに、くわえ煙草のまま聞き返してくる彼の顔がなんだか笑ってる気がした。
それに少しだけ息を吐いて、彼の横顔に「ボス、エスプレッソはいかが?」と芝居がかって言ってみる。
彼は器用にも紫煙を吐き出しながら笑って、内ポケットから携帯灰皿を取り出し吸殻をすてた。

がいれたの?」
「うん、さっきね」
「・・・明日は雨か」
「・・・どういう意味よ」

ジト目で見上げると彼はにんまり笑って「さぁね」なんて嘯きながら、私の手からカップをとうけとる。
まだ湯気の立つそれの香りを楽しむように傾ける彼の右手に光る、大き目の指輪。
それが、彼のボスたる証だ。
この指輪をめぐっては、それこそ語りつくせないほどにいろいろなことがあって、そしてこの指輪で彼の運命も、そして私の運命も、多少なりとも平凡とは言いづらいものになったのだろう。








 

 

――――・・・あんたさー、沢田といてなんになるの?









 

 

風に揺れる針葉樹のざわめきに、一番仲のよかった友達の声を聞いたような気がして、私は少しだけ口元を緩めた。

「なーにニヤニヤしてんの」
「べっつにー?サボリ魔のボンゴレボスさまには関係ありまっせーん」

しれっといった私に彼は笑いながら「あー、ハイハイそーですかー」なんて答えてエスプレッソをすする。






そんな、何の変哲もない、冬の日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 













「あんたさー、沢田といて"なんになる"の?」

私は彼女なりの心配をする一番仲のよかった友達をしばし無言で見つめた後、笑った。

「私はね、綱吉といて"しあわせになる"んだよ」

それをいった後の「あー・・・ハイハイご馳走様」とでもいいたそうな彼女の顔を、私は一生忘れない。

 

 

 

 

 





あなたといると幸せになれる。
あなたといるだけで幸せになれるのよ、綱吉。
例えあなたの身がどんなに闇で黒かろうと、私の掌がどんなに血で赤かろうとも。
私はあなたといれば、あなたといられるこの日常が、何より大切で、何よりも愛しい。

そうだから、ね、綱吉。
明日逝くかもしれないあなたに、何の変哲もない今日をあげる。
これは私のエゴで、あなたの望んだ今日ではないかもしれないけれど。
でも、私はあなたのことをいつも、いつでも、いつまでも・・・―――。

 







 

 

 

"I love you(私はあなたといれば、幸せです)"
















<あとがき>
REBORN企画サイト「Unlimited」さまに捧げたSSです。
タイトルはイタリア語で"日常生活"ですね。
マフィアという職業(?)はやっぱりなんやかんやで"明日死ぬかも"しれないという"刹那"な職業だと思うのです。
だからこそ"今日という日常"を大切にしそうだなぁという発想からタイトルつけました。
ツナさんの年齢は特に考えてない(ぇ)んですけど、そろそろボスの貫禄がでてきたカナー程度な時期だということで・・・。

さて、私の「I love you」に対する意訳ですが、本文にもだしました"私はあなたといれば、幸せです"です。
いやー、一言"幸せ"にしようかと思ったんですけど、ほら、文法的に!(そこだけ忠実なのかよ)
まあ、まじめに語りましょうか。
愛ってなんだろう、って考えたときに真っ先に思いついたのが"しあわせ"でした。
「愛してる」って言われると、目元が緩んで口元が緩んで、すごくうれしくて笑顔になれます。
時と場合によってはちょっと涙ぐんじゃいます。そして私はこう思うのです。
「ああ、幸せだなぁ」

・・・って、すごく普通な解釈をしました。
うう・・・もっとなんか文学的で幻想的な言葉を捜したんですけど、どれもこれもしっくりこなくて・・・。
私の中での「愛してる」は「しあわせだなぁ」で固定のようです・・・。

そんなわけでこの作品のテーマは「あなたといるしあわせな日常のヒトコマ(マフィアVer)」です。
ちょっとほっこりしていただけたら、僥倖でございます。