―――――・・・ごめんなさい・・・。





背後から嗚咽を含む謝罪が聞こえたが、厳つい男に手を握られて早足で歩く少女は振り向けなかった。
ここは小さな貧乏村で、弟や兄たちのために自分は売られていくんだと、少女は理解していた。
理解していたが、普段あどけない笑みをたたえる顔面はくしゃくしゃに歪んでいたし、厳つい男に握られている小さな小さな手のひらは、恐怖で小刻みにふるえている。

「なんね、怖いのか?」

男は失笑して少女を見下ろした。だがしかし、気の強い少女は首をゆるく横に振る。
厳つい男はその鉤鼻をフンと鳴らして、前に向き直り「まぁ」とつぶやいた。

「おまんを売るとこぁ遊郭やって、毎日うみゃぁ飯食えるし、お綺麗な着もんも着れるでよ」













「あんたを引き取りたいってオヤジがいるんだ」

煌びやかな服に身を包んだ女将が言った言葉に、少女は目を見開く。
まさか、迎えに来てくれたのだろうか、あの小さな貧乏村の・・・と、考えた少女は自傷気味に笑った。
そんなはずがあるわけない。自分を引き取るには相当な金が必要なのだから。

「あの稚児趣味のヤツだよ。あんた相当気に入られてたからね」

ほら、ちがう・・・―――と少女は暗い笑みを浮かべた。
女将はそんな少女の表情なんて見ていないかのように「よかったじゃないか」とニッコリ笑う。
いいはずなんかない、と少女はこれからの自分の身を案じて肩を抱いた。















「ま、まて!」

相当な月日を共に過ごしてきた男は、今まで見たこともないような恐怖に戦いた顔をしていた。
女は無表情で、隣に現れた紅い狼の鬣をなでる。
狼は男を見据えてグルルル・・・と喉を引くつかせていた。

「お、お前に念を教えたのは俺だ!修行をつけたのも俺だ!お前、恩をあだグガッ」

男はそれ以上しゃべることはなかった。
狼が目にも止まらぬ速さで男の喉笛に食らいつき、その肉を引きちぎる。
男は悲鳴も上げられないまま絶命した。
女は自分の念である紅い狼を一撫でしてから、絶命した男の顔をみて笑う。
心底うれしそうに、笑う。















「なぁおい、知ってるかよ例の話」
「お前がそんな楽しそうな顔するってことは、紅い犬だか狼だかをつれた女だろ」
「それだよ。・・・今度はよ、レスタードファミリーが全滅だってよ」
「マジか・・・まああいつら相当やってたし、そろそろ殺られても不思議じゃねぇが」
「ちっげぇよ!問題はそこじゃねぇ、いつ!誰が!どうやって!あの女に依頼したかってことだ!」
「まあ、確かにな。ハンターサイトでも情報求むって書き込みが後を絶たないって話だしな」

後ろで聞こえる会話を何とはなしに聞いていた女は、フンと鼻を鳴らした。
面白くなさそうに紅いカクテルを煽った後、そのカクテルと一緒に出されていた封筒を手に取る。
中に入ってるのは依頼だという事はすでに判っていたので、彼女はそのまま店をでた。

「マジでどうやったら頼めるんだろうな"ブラッドウルフ"の女にさ」
















ついていなかったとしか言いようがない――・・・と、彼女は目の前に現れた漆黒の男に苦笑した。
背中に逆十字を背負った男・・・見たことも聞いたこともないが、相当な手馴れであることは確かだった。
男はその黒く透き通ったガラスのような瞳で彼女を射抜いたあと、ニヒルな笑いを浮かべる。
彼女も笑った。もう、生きなくてもいいのだと、幸せそうに笑う。
男が真顔に戻ったが、彼女は気づかない。
はやく・・・そう、はやく。

「早く、殺して」






















ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ







「・・・んぁ」

一瞬アレ?と辺りを見回してから、今までのものが夢だったことに気づいた。
そういえばなんだか場面場面も飛び飛びであったし・・・と、そこまで考えて彼女は苦笑した。

「念っておま・・・ハンターハンタードリームの読みすぎってヤツですよねー」

あはは・・・という笑い声は1階からの「ー、早くおきなさーい」といういつもの母親の声にかき消される。
大きめに「はーい」と声を出して思いっきり伸びをしてから、カーテンを開けた。
今日もいい天気だ。

「おはよーごあいまーす」

欠伸をしながらダイニングに下りれば、母親に「欠伸しながらいわないの」なんて窘められた。


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