彼らを守るための要素は1つ。原作をぎりぎり変えないラインで変えること。
もし全般的に変わってしまったら、対処が仕切れない。
・・・いや、もしかしたら全般的に変わってしまっている可能性も否定しきれないが、今のところ然程の誤差はない。
街に出るとすでにフリーマーケットのような市ができていた。
まったく早朝だというのにえらい人手だと思いつつ、彼女は周囲に目を配る。

「うわー、早朝なのにすっごい人だよ!」

聞きなれた子供の声に彼女は唇の端をあげた。
さあ、ステージの幕をあけようか。









「キルア、いくらなんでも0ジェニーはないでしょう・・・」
「だよね! ほら、もそういってんじゃん!!」

勝ち誇ったようなゴンにふくれっつらをして見せた猫目の少年は「ムームーダンスでコケなきゃ12倍だったんだ!」と抗議のまなざしを向けた。
彼女はそれに苦笑しつつ「そういえば」と話題をそらす。

「クラピカくんとレオリオくんは? 2人に会うっていってたじゃない」
「レオリオは午後につくんだって。クラピカは」

彼女はちりっと胸の奥が痛くなるのを感じた。
彼には本当にこれからすまない事をすることになる。

「クラピカは昨日からきてるんだけど、仕事中だから時間取れないかもしれないって」
「そういやも仕事じゃねぇの?」
「私は今日の夕方から本格的に動くから今は自由行動なのよ」
「そっかー、じゃあお昼ぐらいまでなら一緒に観光できるね! あ、そういえばクラピカ時間空いたら連絡くれるっていってたよ」
「オッケんじゃ電源オンにしとこ」

いつもオンにしとこうぜ、と彼女は突っ込もうとしてやめた。
きっとずっと電源入れっぱなしだったなら、彼の猫目兄がやたらめったら連絡を入れるに違いない。
あの過保護っプリは尋常じゃないし―――・・・と彼女は生ぬるい笑みを浮かべた。

「ってゴン、お前もケータイ買えよ!」










合流したレオリオはやっぱり彼女のことを警戒していた。
念を習った分余慶に警戒されてしまっている節があるのは否めないが、前ほど邪険ではない。
会った瞬間に「おーおーレッドウルフさんだかブラッドウルフさんだかは景気がよろしいようですねぇ」なんて嫌味を言われた程度だ。
そう、あくまで"警戒"レベルである。
一応は成長をしたらしい彼に少し笑った。

「しっかし・・・ふつーあそこまで値切るかね・・・」
「すごかったわね・・・値切りでギャラリーから拍手もらってるの見たのはじめてよ」

ちなみにちゃっかり他人のフリしてギャラリーにまぎれていた彼女である。
彼女はピンク色のソーダを不自然に曲げられたストローで吸いながら時計を見た。
針は既に14時45分を回っている。
彼女は息を吐いた。
今のところ原作は変わっていない――クラピカは昨日のうちにあの占い師の娘と一緒に、ヨークシンへ入ってきているようであるし、少年2人も保護者の青年その1と携帯ショップの前で落ち合った。
これだけ確認できれば後は自分の腕次第だろう、と結論付ける。
ソーダを半分まで飲んでから、彼女は椅子を引いた。

「私そろそろ行くわね」
「あ、仕事?」
「つーか、おめぇも仕事なのかよ」

また殺しなんだろ?とレオリオの瞳が暗く語っている。
彼女はそれを深く淀んだ緑の瞳で見返した。

「ええ、今夜の夕方からよ・・・ああ、歩いてくと間に合わないわね」

一拍置いてから彼らをみやる。その傍らに紅い狼を従えて―――。

「失礼するわ。金策がんばってね」

ぽかんと口を開けている彼らに少し笑ってから、彼女は狼の背に腰掛けその場を後にした。
























「んじゃ、作戦を説明するよ」

彼は胡散臭そうなうそっぽい笑みを浮かべてその場にいる全員を見渡した。
ちなみに今日残るのはクロロを含めて6人。
ここも原作と変わっていない。
いや、変わっているとすれば実行犯の中に自分がいるということだが。

「僕とウボォーととマチはオークションの運営側の人間に変装して金庫へ。んで、フランとシズクとフェイは会場の人間の一掃。文字通りね」
「おいシャル、なんで俺が金庫なんだよ」
「ウボォーが金庫開けないでどうすんの」
「・・・なるほど」

戦闘狂いもほどほどにしろといいたいところではあるが、それをとったらウボォーギンではないかもしれない。
彼女はふと笑って、後ろで本を読むクロロに視線を向けた。
視線に気づいたクロロが目線だけをこちらに向ける。・・・その深く透明な闇色の瞳と深く淀んだ緑の瞳が絡み合う。

―――・・・守ってあげる。

もう、自分に絡んだ絆の鎖は解けないから。











気球の横を紅い狼が空を駆けていく。
まるで御伽話か何かのような出来事に、蜘蛛の実行犯面子は一瞬だけぽかんと口を開けた。
ウボォーギンは電話でしゃべりつつも目を見開く。
それに彼女は笑った。

「あらやだ、言ってなかったかしら」
「聞いてないよ! ていうかそれどんな縄でも切れるとかそんな能力じゃないの!?」
「半分正解」

彼女は笑いながら「後は自分で考えて」と嘯く。
シャルナークはムッとしつつもこの、未だに謎の多い彼女を頼もしく思った。
これだけの長い間一緒にいるというのに、彼女の念の能力は断片的にしか理解できない。
それは敵にしても同じ事。
理解できない能力は脅威であり、それだけ畏怖の対象である。

「団長から伝言だ。適当に暴れて敵をおびき出して殺れってよ」
「ん、了解。そうすると・・・、君は先に戻るかい?」
「そうねぇ・・・でもまあ、もう大分ゴルドー砂漠の近くまで来てるし、私だけ分かれるとかえって目立つし、やめとくわ」

そういって肩をすくめた彼女に笑って、シャルナークは「じゃあ、気球その辺の岩の上におろすよー」と降下をはじめた。
岩の下にはもう既にマフィアが集まってきていて、いきり立った声を上げている。

「オレがやって来らぁ。お前ら手ぇ出すなよ」

ニヤリとその野獣のような顔を歪ませて、彼は岩下へ降りていった。
彼女はそれを深く淀んだ緑の瞳で見つめる。
さあ、第1幕の始まりだ、と。

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