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彼女はクラピカとウボォーギンの戦闘をその紅い狼に跨りながら分析していた。
おそらく【絶対時間―エンペラータイム―】が発動しているのであろう彼に、蜘蛛の彼はかなわない。
もし仮に彼が蜘蛛でなかったら話は間逆にいく可能性も否定はできないが。
しかし、念能力系統、冷静さを見ても圧倒的にクラピカが有利だ。
戦闘解析に関しては経験豊富なウボォーギンが圧倒しているが、半ば頭に血が上っている状態の彼では・・・。
そして、彼の体に鎖が巻きつく。
彼女はタイミングを見計らっていた。
「何故貴様は何も考えず!! 何も感じずに、こんなマネができるんだ!! 答えろ!!」
―――・・・ここ!!!
彼女は紅い狼から飛び降り、同時に狼はクラピカめがけて急降下する。
その小指の鎖が、ウボォーギンに刺さるギリギリのところで彼女は彼を彼女自身の拳でもってして仰向けに転倒させ、狼はその鎖に喰らいつき粉々に砕いた。
驚きに眼を見開いたその痛々しいほどの緋い眼の青年を、彼女は暗く淀んだ深い緑の瞳で見やる。
その長い髪が夜風に遊ばれて舞うのを払いのけ、彼女は彼と対峙した。
「久しぶりね、クラピカ。ククルーマウンテン以来かしら?」
「・・・何故、おまえがここにいる」
「それは答えなければいけないこと?」
「・・・」
金髪の彼は彼女をギッとにらみつけて「お前もこいつの仲間か」と問う。
彼女はそれにゆるく首を振って否定したがしかし、一向に退く気配はなかった。
「そいつの仲間ではないなら、退くかそいつを引き渡してもらいたい」
「だめよ。私はこの人に死んでほしくないわ」
「・・・貴様」
その緋い眼の奥に憎悪と怒りの炎がゴウゴウと燃えている。
彼女はじっとそれを見つめて、笑った。なんて悲しい、さもしい人なのか、と。
「何を笑っている・・・」
「あなた、私に似てるわ」
その眼の中にある、色が。
「寂しい人。どうしてそんな眼に、なってしまうのかしらね」
「・・・貴様それ以上言えば貴様ごと・・・」
「殺せるかしら、あなたに。私はその鎖を破る能力を持っているし、自慢ではないけれどあなたより強いわよ」
「・・・」
「それに私はあなたを殺しに来たわけではないから、あなたがこのまま帰るというのなら追わない」
「・・・」
緋い瞳と緑の瞳が交差する。
確かに、今形成はクラピカに不利だ。
もしこのにらみ合いの状態のまま時間が経てば、大男もおきてくる。
2対1では完全に負けは確定してしまう。
「・・・っく」
青年は悔しそうに顔をゆがめた。
彼が見えなくなるまで見送って、彼女はその場で膝を折ってしまった。
明らかに容量オーバーである。
そういえば昨日の夕方から【束縛からの解放―フェンリル―】は具現化しっぱなしの上、途中で【地獄の女王の左手―ヘルズカウントダウン】もつかっていたのだった。こんなことは久しぶりだ、と彼女は笑う。
彼女は笑う膝を叱咤して立ち上がり、未だに伸びているウボォーギンを診た。
明らかな骨折は4箇所。
一箇所は先ほど彼を仰向けにするために殴ったときのものだ。
「ウボォー、おきて」
「・・・もうおきてる」
そういいつつ、彼は瞼を上げようとはしなかった。
変わりに左手を上げたのでそっと持ってやると、握られた―――ものすごい力で。
「いっ―――だだだだだだだ!!!!」
「バカヤロウ!!なんで尾行けてきた!!しかもタイマンの間にはいりやがって!!!・・・と、言いたいところだが」
彼は急に力を和らげて――といっても手は折れてないようだからものすごく力を抜いてくれたらしい――その瞼をあげて首だけを彼女のほうに向けた。
「すまんな、余計な苦労をかけたみてぇだ」
「みてぇ、じゃなくてかけられたわ。まったく、もう」
そういう彼女の顔は、笑っていた。
「ウボォー、見返りって訳じゃないけど、1つだけお願いきいてくれないかしら」
「いいぜ、俺にできることならな」
「少しだけ、隠れていてほしいの2,3日でいいわ」
「・・・あの野郎を、捕まえんのか」
彼の顔に少しだけ怒りが広がったが、彼は理性でそれを押さえ込む。
だがしかし彼女は「少し違う」と首を振った。
「ごめん、それは言えないの。でも、蜘蛛が不利になるようなことだけはしないわ」
「・・・そうか」
「お願い、きてくれる?」
「聞くもなにも、こんな状態でもどってみろ、いい笑いモンだぜ」
暗に「に任せる」といったウボォーギンに「ありがとう、ごめんなさい」と頭を下げて、彼女は悲鳴を上げる身体を叱咤し彼を狼に乗せてから、その場を後にした。
「団長、から連絡があったよ。・・・ウボォー、途中で見失ったって」
「・・・そうかウボォー自身が朝までに戻らなかったら、予定変更だ。にもそう伝えてくれ」
シャルナークは「わかった」と神妙な面持ちでその場から消える。
彼は彼女の伝言に引っかかりを覚えたがしかし、これで確認することが増えた、と本を閉じた。
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