「・・・ビンゴ。ウボォーはノストラードファミリーにつかまったらしい」

電話が入ったのは2日に入った深夜。
指定されたビルの2階で、ウボォーギンは彼にしてはおとなしくしていた。
連絡してきた男の話ではガスで痺れさせているそうであるが、それにしても・・・と彼女はグラサン越しにウボォーギンを見やって納得する。
彼は、相当頭にキているのだ。
シズクがデメちゃんをだし毒を吸い出すと、彼は「ふう」と一息入れてからものすごい雄たけびを上げる。
怒りと悔しさと、得体の知れない期待を乗せたその叫び声が鼓膜に届いたとき、彼女は心内で嘆息した。
彼女は、彼の中にあの夜色の眼をした少年を見たのだ。
念が同系統は似るのかもしれないな、と妙なことに納得して、彼女は怒れる野獣を静かに見つめる。
彼は死なせてはいけない人だ、と。













「それでは皆様、お手元の写真をご覧ください!! そこに写った7名の男女が今回の標的でございます!!」

8人の男女の写った紙を見た瞬間に、少年2人と青年の顔色が変わった。
写真は4人ずつ2段に分かれていて女が3人、男が5人。―――・・・その右端。
そこに、昨日あったばかりの女の顔があった。

「・・・キルア」
「・・・ああ、多少ピンボケしてるけど、これはだ」

そういう少年は眉間にしわを寄せて表情をゆがめている。
何故、写っているのか。
理由はひとつしかない。彼女が言っていたではないか、夕方から仕事だと。
"仕事"―――それは、いったい、どういった・・・?
キルアはもっと突っ込んで聞いてみれば案外しゃべってくれたかもしれないと――彼女に限ってそれはないが――思わず舌打ちした。
その横ではレオリオが「やっぱりアイツ信用できねぇ!」と眼を吊り上げる。
リング上ではまるでパンダのような目元の司会が「参加費用は500万ジェニー」と告げていた。

「・・・どうしよう、参加、する?」
「するっきゃねぇだろ・・・この競売、いろいろ裏がありそうだけど」
「裏って?」
「それは後で説明すっから、さっさと参加費用だしちまおうぜ」

キルアは渋い顔のまま受付に歩き出した。















「ウボォーが捕まってたビルの所有者名義は(株)ポリオ物産。ノストラードファミリーの幽霊会社だね」

シャルナークの声を聞きながら、彼女は部屋の中を物色していた。
こんなときになんだが彼女も人間。つまり、お腹がすいたのである。
冷蔵庫は見たところビールしかないし、野菜も買い置きの缶詰すら見当たらない。
彼女は舌打ちした。曰く、ちゃんと自炊しろ、と。

「サンキュー、恩にきるぜ」
「わ キタネ!!」

脊髄反射で振り返った彼女をどうか責めないでほしい。
シャルナークの「愛はいいから金をくれ!」という叫び声を聞きながら、ニヤニヤしそうになる顔を何とか押さえ込んだ。
このすぐ後から大変だというのに、まったく自分はどれだけ腐っているのかと苦笑する。
そうしている間にウボォーギンは窓から飛び出していった。

「さて、俺らはアジトにもどるか」
「・・・まって、私はウボォーを追うわ」
「心配ない・・・とはいえないけど、後つけてるのばれたら怖いよ?」
「いいのよ。怒られるのは覚悟してるわ」

彼女はまっすぐにシャルナークを見る。
彼はその瞳の色に息を呑んだ。暗く冷たいその深い緑の瞳が、まっすぐに自分を射抜いている。
詰まった何かを吐き出すように息を吐いて、彼は「俺にを抑える権利はないよ」と肩をすくめた。

「・・・クロロには、明朝までに戻ると伝えてくれるかしら」
「いいよ。・・・ウボォーを、たのんだ」
「ええ、任せて」

そのはじめてみる真剣なまなざしの空色に、彼女はふわりと笑った。














「で、キルア、さっき言ってた裏ってなんなのさ」
「・・・おまえもみたろ、あの会場に特設リングがあったの」

キルアは一旦「はー」と息を吐き出してから「本当はあれでお気楽なバトルでもやる予定だったんだと思うだぜ、あれ」と肩をすくめた。

「その予定を変更してでも、こいつらを探す必要が生じた・・・?」
「そ どんなに時間と金をかけてでもね・・・それに、仮にも競売だっつーのに、競売品が品物じゃねぇ時点でももうおかしいだろ、どうみてもさ」

少年は―――・・・いや、少年たちはうすうす感づいていた。
競売に競売品が出ない否、出せない理由その原因に。
自然とあの金髪のクルタ族の青年が思い出された。

「幻影旅団・・・だな、競売品をどうにかしようなんてイカレた奴らなんか、そいつらしか思い浮かばねぇ」
「・・・じゃあ、なんで、は」
「きまってらぁ!!アイツも団員に違ぇねえよ!!」

少年の脳裏に、あの翡翠色の瞳がよぎる。
どこか悲しげで、どこか寂しい、あの暗い色。
人殺しなんかこの世にいっぱいいる自分もそうだと言った彼女はしかし、その口で「ゴンはいい子ね」といってくれた。
その前には怒りを静めてもらったこともある。―――あのときは、まるで口の良いミトさんがいるみたいだと、思ったけれど。
天空闘技場で会ったときは、何かが吹っ切れたような顔をしていて・・・でも、相変わらず瞳はどこか悲しげだった。
そんな彼女が、非道な幻影旅団なのか・・・―――。

「いや、まだ断定できねぇよ。もしかしたら奴らに無理やり協力させられてるのかもしれないし、あとは雇われてるとか」
「どっちにしろ、奴らに加担してるのはかわんねぇよ」

もっともな言い分にキルアはぐっと詰まった。
彼とて彼女が幻影旅団だとは思いたくない。
思いたくはないが、今この状況ではそうとしか・・・―――。

「・・・とりあえず、こいつら探そう。にあったら直接聞けばいいんだ」
「そう、だな」
「クラピカなら何かしってるかな・・・あ、そういえば、クラピカはどうしてるんだろう」

ゴンの言葉にキルアはそういえば彼からまったく連絡がないことに気がついた。
今までは腕相撲やら金策やらで手一杯で気づかなかったのだが。

「電話してみろよ、ゴン」
「うん」

何気に初めて使う携帯電話の通話ボタンを、少年は押した。

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