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「あー・・・ここかしら」
彼女は彼女の身の丈の3倍はあるかという門を見上げた。
鉄格子でできたなかなかにしゃれた門からは広大な芝生と、その奥に城とは言わないまでも結構な屋敷が伺える。
紅い狼の背から優雅に降り立った彼女は、門の横に備え付けられているインターホンを押した。
「千耳会直轄経営"グリーンローラン"マスター・ローランの紹介で来た"ブラッドウルフ"よ。ライト=ノストラード氏はご在宅?」
「ぎゃあぁああああっ!!」
耳を劈く男の悲鳴に、は思わず耳をふさいだ。
「アーラ不思議。腕がきえちゃった」
その少女の横で楽しそうに笑うピエロと、両腕の消えた男を交互に見やって、ため息をつく。
曰く、ひーくんもコレがなきゃ"ちょっと面白いお兄ちゃん"なのに。
おそらくこういうところが少女の母ないし蜘蛛全員に倦厭されている所以なのだろう。
因みに彼を入団させた少女の父は「外の見えないところに居られるより、中に居てくれたほうが見張りやすい」だそうで、このキチガイピエロが常々彼を好戦的な目で見ているのは判っているようだ。
というか、このピエロはそれを隠していない。
「ひーくん、もういいよ。あたしもぼーっとしてたもん」
「んー、だめだよ。こういう躾はちゃんとしなくっちゃ。"人にぶつかったら謝る"だろう?」
「むう・・・」
そう、この両腕の消えた男がこうなってしまった原因は、彼がにぶつかり謝らなかっただけではなく「チッなんでこんなちまいのがいんだよ・・・うっぜぇなぁ」と悪態をついたからに他ならない。
少女は考えをめぐらせた後、とりあえずこの怪我人どうするのか協会の人にきかないと、と先ほど番号札を配っていた自分の身長とそう変わらない人を探し・・・―――船の上で出会った人たちを見つけた。
「あ!ゴンだ!」
「知り合いかい?」
「船であったの。ひーくん、あたしちょっといってくるね」
「ウン、またね」
「ご令嬢のボディーガード、ですか」
「ああ、今年の9月まで、短期間のみお願いしたい」
「9月・・・と、いうとヨークシンドリームオークションまで、でしょうか」
問いかけにノストラード氏は「察しが良くてこちらも助かる」とダンディズムに反さず、シニカルに微笑んだ。
彼女は彼の好意的な視線を、渡された資料に目を通すことで気づかない振りをする。
彼の口からもれ出たため息とも嘆息とも付かぬものを聞きながら、彼女はその資料の中に"人体収集"という言葉を見つけ、眉をひそめた。
「・・・お嬢様は随分ステキなご趣味をお持ちのようね」
ノストラード氏はふっと笑いながら、そのことに関してはノーコメントという姿勢をとった。
彼女はそれ以上追及はせずに彼とその場で契約を交わす。
その際「今夜ディナーでもどうかね」とノストラード氏は微笑んだが、彼女はニッコリ笑って丁重にお断りしたのだった。
「ゴーン!クラピカー!レオリオ!」
「あ、!!」
釣竿をもった少年はパッと笑顔になってこちらを振り向いた。
青年2人も同じように笑顔で「着ていたのか」「ちっくしょ、お前200番台かよ!」と軽口を叩いている。
因みに、それぞれ手にはオレンジジュースが握られていた。
「? なぁに、そのジュース」
「うん、そこに居るトンパさんがお近づきのしるしにってくれたんだ」
少女がその真っ黒な瞳でじっとトンパを見やると、彼は見て取れて「うっ」とした、何かにひるむような姿勢をとった。
首をかしげた少女である。
何で始めてあった人にココまでドン引きされなければいけないのか。
「そういやお前、一緒に行く人が居るっていってたけど、そいつは?」
「えっとねー、あそこに居る人なんだけどー」
少女の指の先には、あの奇術師が居る。
だがしかしレオリオは訝しげな顔をして「・・・どいつだよ」ときょろきょろと首を動かした。
先ほどの腕消失事件を掻い摘んで見ていた彼には、少女が"一緒に行く"といった人と奇術師がどうあっても結びつかない。
「ほら、えーと、44番の札つけてるでしょ?」
その数字に彼らの瞳が極限にまで見開かれた。
ゴンは純粋に驚いただけだろうが、青年2人は「こいつ何者」という少しばかり畏怖のこめられた顔をしている。
「えっと・・・はその、仲間なのか? 彼と」
クラピカは遠慮がちに"仲間"という単語を使った。
またえらく例の奇術師には不似合いな単語であるのだが、それ以外で思いつくものが見当たらない。
少女はしかし少し考えた後ゆるく首を振った。
「んっと・・・なんていうのかなあ・・・」
少女は考えをめぐらせた挙句、一番全うではない――少女の両親がこの場で聞いていたならば、柄にもなく卒倒するもしくは、全身鳥肌にしてしかめっ面をし全力で否定したに違いない答えにたどり着いた・・・―――そう、つまり。
「年の離れた血のつながってないお兄ちゃんかな」
彼ら3人の目が三者三様に点になり、一拍おいてから「えーーーーーっ!?」と今世紀最大の絶叫を上げたのであった。 |