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「あ、ひーくん?」
ドーレ港に付いたのはお昼を少し過ぎたころだった。
少女は「一緒にいこうって約束してる人がいるから」と港でゴン達と別れ、今はザハン市に向けて走っているところである。
基礎体力訓練の先生たち曰く、試験中もなるべく体を動かすようにとの事だったので。
「だよー・・・うん。ドーレ港からいま3、4キロ?かな・・・えー? だってイルミさんもくるってきいた・・・」
走りながら例のピエロと話す少女はしかし、車より早いスピードを出している。
しかもこの道、ドコまでもまっすぐで障害物がないものだがら、思いっきり走りやすいのだ。
「っちぇ、なーんだ。来るでは別行動なんだ・・・んーん、別に良いよ・・・んじゃあ場所だけ教えてー、後は自分で調べる」
彼女は一旦走るのをやめて、ウェストバックからメモ帳とペンを取り出した。
「さて、それじゃあ私もそろそろ動こうかしら」
彼女はその緑を帯びた黒い髪をさらりと揺らし、立ち上がった。
胸元の開いた服からチラチラと見える蜘蛛の刺青を特殊なファンデーションで覆い始めた彼女を横目で見ながら、彼女の夫は「ああ、もうそんな時間か」と読みかけの本を閉じる。
「明日だったか、ノストラード氏と会うのは」
「ええ・・・気は進まないけどね」
彼女は悪戯っぽく笑いながら「だって彼、私のこと狙ってるもの」とクロロを見やった。
遮光性のカーテンから零れ落ちる冬の日差しは、コンクリートの床にキラキラと反射して仄暗い部屋に影を落としている。
本棚に収まりきらない平積みの古書はどれもコレもオークションにでも出せば値打ちモノ。
その平積みになっている古書の、そのまた上に先日の収集品がごちゃごちゃと積まれていた。
美術館の館長やらそれなりのコレクターがみたらまず卒倒するか、怒り狂って暴れまわるであろうレアモノへの仕打ちである。
だがしかして、これら平積みになっているものはクロロが愛で尽くし、そろそろ売られようとしている所謂"お古"なのだ。
彼はその平積みになっているものたちを行儀悪く足でどけて――常人が見ればきっと悲鳴を上げたに違いない――薄く笑いながら「それは大変だ」と相槌を打ち、彼女のために服をクローゼットから取った。
「この服着るの久しぶりだわ・・・」
「入るといいな」
「・・・殴るわよ?」
果たして・・・―――彼女が以前使っていた仕事用の服は、変わらず彼女を迎え入れたのである。
「ツバシ町2-5-10は・・・っと」
少女はメモを片手にお目当てのお店を探していた。
ヒソカが言うにはツバシ町2-5-10にある"ゴハン屋"でキーワードを言うと会場に案内してもらえるらしい。
「あ!あったー」
少女は少しどきどきしながらそのお店の暖簾をくぐった。
瞬間に店主の「いらっしぇーい」という威勢の良い声に迎えられる。
一瞬目を瞑ったがしかし、数度瞬きをしたあと店主の「ご注文はー?」という問いに少女は笑顔で答えた。
「ステーキ定食、弱火でじっくり!」
自分と同じ目線の――でも明らかに年齢が上の――人から番号札をもらった彼女は、きょろきょろと辺りを見回した後、お目当ての彼を見つけ、パッと顔を輝かせた。
「ひーくん!」
「やぁ、」
ピエロが幼女と話している。
むしろ幼女からピエロに話しかけている。
幼女と彼は知り合いのようだ。
ていうかひーくんてなんだ。
やめよう、近づくのはやめよう。見るのもやめよう。
以上がその場に居合わせた受験者たちの心内である。
だがしかして、少女とピエロはそんなこと知る由もなかった。
「ひーくんあのね、ありがとう」
「・・・? なにがだい?」
「この前のあの箱のお礼、ちゃんと言ってなかったから」
少女は若干照れながら「これのお礼」とホルスターに入れられたタロットカードを見せた。
ホルスターの中身は3つに区切られており、どこにもカードが詰まっている。
「ああ、このホルスター何かと思ったら・・・へぇ、ちゃんと考えたんだねぇ・・・ん、若干枚数が多いような・・・」
「あ、あのね!それはあたしが買ったやつなの。ほら、ひーくんトランプとかよく投げるでしょ、アレの真似したいなっておもって!」
「・・・ナルホド」
少女はかわいらしく笑いながら「大哥にナイフ投げ教えてもらったんだ」と物騒なことを言った。
因みに大哥とはフェイタンのことで、シャルナークと同じく少女は"フェイタン"の発音がちゃんとできない時期があり、議論の末――お兄ちゃんは柄じゃないとか、"兄さん"は既にフィンクスが使っていて被るだとか――彼の希望(という名の諦め)により、彼を拾った恩人の国の言葉で"お兄さん"を意味する"大哥"に決まった次第である。
「でもさ、オカアサンに怒られたんじゃない? 彼女ボクのことそんなに好きじゃないだろ?」
「うん。ひーくんがかーさんのことオカアサンってよぶと怒るもんね」
その頃、ノストラード邸に向かう列車の中、は何か薄ら寒い気配を背中で感じ「さ、さぶいぼが」と一人ごちていた。 |