1次試験2次試験ともに原作どおりの道筋をたどり、彼女は今飛行船の中にいた。
この後朝8時まで休憩で、それから3次試験がある。
彼女は目下、シャワー中であった。

なんとこの船、コインシャワーコインランドリー完備だったのである。
どんな飛行船だよ!と突っ込みたいのはあとにして、とにかく今はシャワーだ洗濯だと、彼女の機嫌は急上昇していた。
マーメンに言って借りた貸し出し用のジャージに袖を通して、早速服を乾燥機に入れようとしていたところで、彼女の携帯が激しく暴れだした。こんなときに誰だろうと思いディスプレイを覗けば、例のバーのマスターである。
訝しく思ったものの、今抱えてる洗濯物をとりあえず乾燥機に入れなければ携帯は握れないのでそのまま放置した。
暫くすると振動は収まって、代わりに留守電が録音されていた。
さらに訝しく思った彼女である。
あの仲介人は特別急な用事ではない限り直接話す方であるし、第一携帯に連絡するのは依頼があったときのみのはずだ。
しかし今試験を受けているということは伝えてあるし、などと考えながら彼女は留守番電話サービスに掛けなおす。

『1件ノ 新シイメッセージ ガ アリマス。1番目ノ メッセージ デス。 1月 7日 午後 8時 11分。・・・ああ、俺だ。忙しい中すまないな。実は至急お前に伝えることがある』

電話越しの声は特別切羽詰った様子でないので、マスター自身に何かあったわけではないらしいが・・・。
彼女は眉間にしわを寄せていたが、次の言葉に目をこぼさんばかりに開くことになる。

『・・・蜘蛛が、お前を血眼になって探しているぞ』
















3次試験の間、頭の中は蜘蛛の――・・・あの黒く透き通ったガラス球の瞳を持つ男のことでいっぱいだった。
彼には【束縛からの解放―フェンリル―】を掛けたはずなのに何故、と。
幾ら考えても考えても、出てくる答えはひとつ。
彼が、念を破った。
それしか考えられない。
でも、あの時は・・・と、あのハンターに【束縛からの解放―フェンリル―】を使ったときのことを思い出す。
あの時はちゃんと念によって彼は殺されたし、彼が殺されたことによって自分は解放された。
そして彼がつけた名前も、思い出せないでいる。

『【389】番 3次試験通過。18時間36分58秒』

その声にハッとして辺りを見回すと、数人がこちらを凝視していた。
隅のほうでトランプタワーを作っていたらしいあの嫌な気配の持ち主は、何を思ったのかこちらをみてニヤァと粘っこい笑みを浮かべている。気持ち悪い。
しかしあまりに皆が凝視するので何だろうと思い、自分の体を見てギョッとした。
いつの間にか服の半分が血に濡れていて(しかもところどころ乾いていて、触るとぱりぱりした)手は血で真っ赤に染まっており、髪の中に仕込んであった鉄線も血をよく落としていないせいでさわり心地がいまひとつ良くない。・・・というか、コレは考え事をしながら進んだせいで、向かってくる敵全部殺っちゃったの、かな。
いや、それしか考えられない。
こんなに血がついてるのに痛いところはひとつもないし(しいて言えばお腹がすいた)というか、この返り血の量半端じゃないのだが、いったい自分は何の道を通ってきたのかと彼女は頭を抱えた。






「お前、どう思う・・・あいつさ」

レオリオは何か嫌なものでも見るように彼女の方を顎で杓った。
対するクラピカも顔をしかめ、険しい表情で彼女を見ている。
あの時名前が名乗れないといった彼女の服は今や半分が血で染まり、彼女の手自身もまるで手袋なしで手術でもしてきたかのように血で真っ赤であった。
キルアがジョネスを殺したときはあまりにも血が出ないので驚いたのだが、こっちはまったく逆だ。
あの血の量半端じゃない。

「・・・今の彼女からはそんな感じは受けないが、危険・・・だとおもう」
「・・・だな」

どうやら同じ考えらしい彼らは、彼女もヒソカと同じぐらいの危険度だと認識したようだった。
彼女にとって見れば土下座してでも同じ括りにはしないでくれと懇願するほど迷惑な話だが、今の彼らに武力と危険度を細部まで見分けろということの方が土台無理な話である。
そんな彼らの話をよそに、ゴンとキルアはまるで珍獣でも見つけたかのような顔で彼女に近づいていった。
仲間兼保護者の2人がそれを見逃すはずもなく、少年二人は子猫よろしく首根っこをつかまれ彼女と引き離される。

「な、に、やってんだおまえら!」
「えー、だってあのお姉さん血だらけだから、怪我でもしてるんじゃないかなーって」
「俺はただの興味本位。どうやったらあんな血が被れるのかききてーの」

まったく対称的な2人の言葉にため息をつきながら、保護者2人は「彼女は危険だ」と口をすっぱくして彼らを連れて行く。
そんなことない、だの。俺だったら別に平気だぜ、だの。そんな抗議なんぞには耳を持たぬと、レオリオは彼らの首根っこをつかんだまま飛行船に乗り込み、クラピカはため息をつきながら後を追った。

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