「まぁ座りなされ」

好々爺のように笑う何を考えてるのかわからない彼に目を細め、彼女は言われたとおり座布団の上に正座した。合い向かいで髭をなでている彼は「ふむ・・・」とつぶやいてからおもむろに口を開く。

「最終試験をするにあたって2、3質問をさせてもらおうと思っての」
「・・・はい」

ゆっくりとうなづいて見せた彼女に、彼は髭をなでる手を止めて腕を組んだ。
彼は急にその顔から笑みを消してジッと彼女を上から下まで眺めた後「その前にな」と先ほどと打って変わって真剣な声をだす。
彼女は面食らって彼を凝視した。
自分が知っている原作では、ここですぐあの意地の悪い質問をぶつけてくるはずである。

「お前さん"ゼーダ=ルカオス"という男をしっておるか」
「・・・?」

覚えの無い名前である。
向こうの原作知識でも、こちらの記憶でも、そんな名前は・・・。

「そやつはワシの弟子でな・・・まぁ、ちょっと変わった奴ではあったがの。そうさな、もう10年以上前になるか。それまで音沙汰の無かったあやつがある日、子供を買った、といってきおった。聞けば数えで12になる女子じゃという」

聞いたことのある話だった。
12歳の子供を買った・・・この世界ではよくある話だと思う。
自分が特殊な例ではないはずだった。
だが、どうだろう。――あのハンターの男は、なんと言う名だっただろうか。

「あやつはその女子を弟子にすると――正気の沙汰とは思えなかったが、あやつはそういった。それで電話をしたのだと。まあ要するに、弟子をとる許可を求めてきたのじゃな。またそれっきり音沙汰が無かったのじゃが・・・最近風のうわさで、あやつが死んだというのを聞いてのぉ」

彼は何を考えているのかわからない瞳で、彼女を見た。
正座している足の上においた手の平が、汗で湿ってきてる。
彼は疑っているのではない、確信しているのだと彼女にはわかっていた。
判っているだけでどうすることもできないし、今後どうなるのかもわからないが。
彼女が黙ったままでいると、彼は細く息を吐き出して「まあ」とおどけた口調でいった。

「別にそのことでどうこうするつもりは無いわい。ただ、これだけは確認しておきたかったんじゃ。・・・お前さんが、あやつを殺したのか」
「・・・はい」
「・・・怨んでおったのか、あやつを」
「判りません」

彼女は彼の瞳を見ながら、それを口にする。

「あの時のことは・・・いえ、彼を殺す以前のことはあまり記憶に無いのです。もしかしたら怨んでいて、忘れていたのか、それとも何も思わずに彼を殺したので、覚えていないのか・・・ただ、私は彼に"飼われ"ているのがとても・・・苦痛で、自由になりたかった・・・の、だと思います」
「・・・そうじゃったか・・・」

会長は大きくため息をついたようだった。
――ようだった、というのは彼女の視界がどういうわけだかぼやけて彼の顔がうまく見れなかったためである。
彼は特にあわてた様子もなく「これこれ、泣くでない」などといい、ハンカチを渡してくれた。
それをありがたく――自分のハンカチは濡らしてしまって使える状態ではなかった――受け取ると「話を戻すぞい」とおどけた口調でしゃべりだす。
そして彼女は、あの男・・・ゼーダ=ルカオスの名前を自分の心に刻み込んだ。
・・・そのことで、彼女のずっと昔に奥へとしまいこんだはずの、心の箱が開いてしまうことも忘れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来て初めて、原作を曲げてしまった気がする・・・と、彼女は対戦表を見ながら頭痛を覚えた。
どうみても、ポックルがいないのだ。
どうやら彼は殺されてはいないものの、針男にそのプレートを取られ失格になってしまったらしい。
いまは半生半死の状態だと聞かされたときは、心の中で何べんもあやまった。
・・・そして。

「第3試合 ハンゾー対ブラッドウルフ!」

泣きそう。

 

 

 

「・・・お前、ブラッドウルフって名前なのか」
「いいえ、俗称よ。勝手についた名だわ」
「・・・」

軽く睨まれたが、笑顔で返してやると彼はため息を吐いた。

「・・・正直、俺は疲れてる。だからあまり戦いたくない」
「・・・奇遇ね。私もできれば戦いたくないわ」

だがしかし、勝たなければ次はキルアである。
もし仮にハンゾーに負けて、キルアと戦うことになったとしたら。
おそらく負けても勝っても、後々仕事をご一緒する今は針顔のブラコンに全力で一発二発殴られるに決まっている。もしかしたらあの包帯ぐるぐるの母親にも何発か食らうかもしれない。
むしろあの恐ろしい拷問部屋に入れられてしまうかもしれない。
それから・・・それから・・・。
ふと念の気配を感じてハンゾーの肩越しに例の針顔の彼を見る。彼は腕を組みつつ静かに中指を立てた。

――――・・・怖い。怖すぎる。

サッと血の気が引いたが、ふと思いついてハンゾーの出方を警戒しつつ凝を行った。
思ったとおり、その静かに立てられた中指の先には、念で綴った文字が浮かんでいる。

【この試合負けて。で、次の試合は全力だして。】

不振に思って同じようにサッと指を立てて文字を作った。
ハンゾーは優秀なことに何かを感じたらしく、警戒の色を強めている。

【どういうこと】
【君ならわかるでしょ。あれ俺の弟。連れ戻しに着たんだ、協力してよ】
【私が全力出したら、キルアくんは戦意喪失して負けてくれるってことかしら】
【そうだよ・・・あいつの頭に俺の針がはいってるからね】

原作で判っていたことだが、いざ本人に言われるとグロイことこの上ない。
彼女は「はー」とギャラリーにも聞こえるように息を吐いて「マイッタ」と手を上げた。
驚いたのは彼女と針顔の男、それから鬼畜ピエロと会長を除くすべての人たちである。

「てっめふざけろ!!」

叫んだのは例にもれず少年二人の保護者その1、レオリオだ。
彼のくくりでは彼女は例のピエロと同じく危険人物であるので、キルアと戦わせたくないという事だろう。
彼女はお優しいことだ、と失笑して審判に「下がっても?」と指示を仰いだ。
少々狼狽しながらも、審判の男はネテロが何も言ってこないので「勝者、ハンゾー!」と宣言する。
彼女はレオリオの罵倒をBGMに、壁際へ下がった。
真逆の壁際ではピエロがひどく面白そうに笑っており、その横の針顔男は念で【じゃあがんばって】ってなんて
いっている。ふと別の気配を感じて違う方向を向けばネテロがなんでもない風を装いながら【試験に私情は挟まんでほしいのぅ】などと文字を作っていた。

なんかチャットみたい。あはは、念でやるチャット、通称"念チャ"みたいな・・・――彼女は頭を抱えた。

BackNext