「んだっつんだよ、あの女!!」

レオリオはゴンがこの場にいない故か、今まで以上にとげとげしい言葉を吐いた。
それがただの私心ではなくて仲間を思っての行為だとわかってしまうので、普段たしなめる側に回るクラピカも苦笑いするだけだ。

「俺は別にいいぜ、相手にとって不足ナシ・・・ってかんじ」

猫目の下の口元をニッとつりあげて、キルアは嘯いた。
それをジト目で見やったレオリオはおもむろにため息をついてみせる。

「あのなぁ…3次試験終了後のアイツ、お前だってみただろ!」

体の半分と両手を血で真っ赤に染め上げ、どこか惚けた様に虚空を見つめる彼女。
その瞳に何を映しているのか知りたくて近づいたのだが、声をかける前にレオリオによってひきはなされてしまった。――今問いかけたら、彼女は答えてくれるだろうか。
そっと横目で彼女を伺い見れば、気づかれて微笑まれる。
不思議な女だった。見た目はひ弱そうな普通の女だというのに雰囲気が・・・そう、どことなく一番上の兄を彷彿させる。
たとえば、あの深い緑色の瞳・・・その奥に、暗い何かがあるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 


クラピカとヒソカの試合が終わり、いよいよ次は自分の試合である。
彼女はごくごく軽く息を吐いて前へ出た。
相手の少年もズボンに両手を入れて、ほとんど猫背になりつつ前へ進み出る。

「第5試合 ブラッドウルフ対キルア!」

その瞬間、彼女の気配ががらりと変わった。
風もないのにその長い緑を帯びた闇色の髪はゆらりと揺らめき、濃く深い緑色の瞳はその奥に暗い炎をちらつかせている。少年は我知らず全身に汗を掻いた。
毛穴という毛穴が開ききって、そこからまるで清水の様に汗が湧き出てくる。

―――・・・コレハ、キケン

本能のような何かが、耳元でささやいたと同時に、彼の体は部屋の隅の天井へ張り付いていた。
彼女はあわてた様子もなく、ひどくゆっくりとした動作で自分の髪の中に手を入れる。
スッと引き抜いたそれは髪ではなく、針金のような何かしなやかな金属糸のようだった。
少年の全身が、ザワリと泡めき立つ。

―――・・・コロサレル、コロサレル、コロサレル

何かがささやいている。
だがそれが聞こえないほどに、彼の息は上がっていた。
心臓はまるで耳元にあるように煩くなっていて、両手両足は自分の体重を支えるのがやっとだ。

「・・・降りてきなさい」

冷え切った彼女の声がする。
少年は降りない――否、降りられなかった。
降りたら殺されるという恐怖感にもはや思考は支配されている。
彼女はそれに気がついたのか、急にその異様なほどの圧迫感を引っ込めてついでにその金属糸もしまう。

「殺さないわよ。これはハンター試験なんだから」

言って彼女は少年に背中を向けた。
少年は数回瞬きをして被りを振ってから床に下りた。
その彼女の背に、悔しさいっぱいの視線を投げて、彼は唇を動かす。

「・・・参った」

彼女は少年に背を向けたまま、もう一度軽く息を吐いた。
審判の「勝者、ブラッドウルフ!」という声を聞きながら彼女は針顔の男を見る。
彼の目の前には【お疲れ】と念で書かれており、その横のピエロの前には【おいしそう】とあった。
念チャが定着しそうだと、彼女は顔を覆った。

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