「ギタラクル。キルアの行った場所を教えてももらう」

まるでとらわれのお姫様でも助けに行くようなセリフに、おもわず噴出してしまいそうになったことを許して欲しい。
だがしかして、彼女は腐っても(いやむしろ腐ったから)腐女子なわけで、そう考えてしまうのはもはや脊髄反射といっても過言では無かった。

「やめた方がいいと思うよ」
「誰がやめるもんか。キルアは俺の友達だ!絶対に連れ戻す」

猫目兄は少年をじっと見やってからから、彼の後ろに立っているクラピカとレオリオを見やる。

「後ろの二人も同じかい?」
「当然!」

猫目の彼は「うーん」と人差し指を顎に当てながら、未だに座っている彼女をちらりと伺い見た。
訝しく思いながらも凝をすれば、またも念で文字が書かれている。
彼女はその文字に目を見張った。

「・・・いいだろう。教えたところでどうせたどりつけやしないし」
【こいつら連れてきてよ、家の前まで。君はそのまま門開けて入ってくればいいし】

なんとまあ、お優しい兄上である。
思わず笑って【あら、いいの?】などと返してやれば、小さく肩をすくめられた。
つまりは、来てもどうせ門を開けられず、たとえ開けられたとしても中でくたばる、と彼は考えているわけだ。
そして出来ればなるべく早めに来させたいのだろう。そう、少年が怪我をしているうちに。

「キルは自宅に戻っているはずだ。ククルーマウンテン。この頂上に、俺達一族の棲み家がある・・・行き方は、彼女にきくといい」

そうして指差された彼女に、驚きと疑惑の視線が絡む。
それを彼女は鬱陶しそうに見やってから、息を吐き「仕方ないわね」と席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いやぁね。そんな睨まなくても、とって食ったりしないわよ」

パドキア共和国行きの飛行船の客室は、まるで猛吹雪でも吹いているかのような有様だった。
当然といえば当然なのだが、最初から信用されていない―主に保護者2名からは絶大な不支持を得ている―彼女がいるこの空間で和やかな雰囲気なんぞあったものではない。
しかも今や和み要因であるはずの少年自身がギスギスしていた。

「・・・お姉さん」
「ん?」
「お姉さんは、あいつと知り合いなの」

聞いたことも無いような暗いその声に、彼女は少し悲しくなる。
しかし今は下手な嘘をつける状態ではない。

「知り合いというか、そうね、同業者よ」
「どう、ぎょう、しゃ」
「ええ、同業者。前に1度、彼に仕事を頼まれて受けたことがあるの」
「・・・お前も殺し屋か」

はき捨てるように言うクラピカを少しだけ睨んだ。

「・・・この世界に殺し屋なんて大勢いるわ。ピンからキリまで、それこそはき捨てるほどね」
「まったく、世の中狂ってるよ」

天を仰ぐように飛行船の天井を見上げるレオリオに、彼女は視線を移す。

「そんなことをいうあなたが貴重だと思う。・・・言っておくけどゾルディックは殺し屋の中でも最上級よ。その仕事の的確さと、すばやさ、依頼料の高さに、信頼度。どれをとっても一流よ」
「殺し屋に一流もクソもねぇだろ!!皆そろって人殺しだ!!」
「とんだ甘ちゃんね。プロハンターが聞いて呆れるわ」
「んだと!?」

つかみかかる勢いで立ち上がったレオリオに、彼女は冷たい一瞥をくれてやる。
するとどうしたことか、彼はまるで氷付けにされてしまったかのように動けない。
彼女はそんな彼にわざと失笑してみせた。

「それぐらいのことで熱を上げたんじゃ、この先生き残れないわよ。あんたたちが足を踏み入れたのは、そういう世界。人を殺して情報を盗んで、強いものだけが生き残る。そういう世界なの」
「ちが」
「違うなんていわせないわ。ハンターになったほとんどの人が、早い段階で人を殺めてる。良くも悪くも、ハンターと殺し屋は似てる」
「・・・」
「・・・まあ、私の言いたいのはそんなことじゃなくてね。ゾルディックは一流だから、無駄な殺しは一切しないの」
「はっ・・・だからなんだっつんだよ!」
「頭悪いわね。彼らにとって殺しは生活なの。ビジネスなのよ。仕事に好きも嫌いも無いのと一緒で」
「お姉さんは」

ここに来てずっと黙っていた少年が口を開く。
見つめてくる夜色の瞳には、もはや暗い影も怒涛のように燃える炎もみたらない。

「キルアは別に無理やりやらされてたわけじゃないって、いいたいんだね」

まっすぐに見つめてくるその瞳には、何か決意のようなものが見え隠れしている。
彼の態度にレオリオは盛大な舌打ちと共にどっかりと椅子へ座った。

「お姉さんの言いたいこともちゃんと判るよ、俺。でも・・・でも俺は、やっぱり人を殺すのは、いけないことだって思う」
「・・・」
「いけないことだとおもうから、俺はキルアをあそこから連れ出したい。・・・それじゃ、だめ、かな?」

ゆるぎないその瞳をじっと見つめて、彼女はやわらかく笑った。
光の中にいる子供。夜の瞳を持つ少年。
彼は、自分たちのような闇夜を照らす、小さな星のような存在なのかもしれない。
彼女は自然な動作ですっと手を伸ばし、そのつんつんしている頭を撫でる。

「・・・ゴンは、いい子ね」

その髪は以外にも、柔らかかった。

 

 

 

 

 

バスを降りると、その高い高い門が空とつながっているようだった。
思わず「すげえ」と口走るレオリオを尻目に、彼女は看守室(と見せかけて実際は掃除夫の休憩所)へ足を向ける。

「すいません」
「あ、はい」
「ちょっと中に用があるんですけど」

面食らったように顔を上げた小太りの男にニッコリと笑いかけ手から、彼女は後ろ3人を呼び込んだ。

「私、すぐに中に用があるので先に入りますが、この子たちはまだ一人で開けられないので、どうにか鍛えてやってください」
「は? あの・・・」
「詳しい説明は彼らがすると思います。・・・あー、中に取り次ぎとかお願いできないですよね」
「・・・え、あー・・・えっと」

若干混乱しているらしい彼に苦笑して「ごめんなさい、自分で連絡とります」とその場で彼女は携帯を取り出す。
猫目兄の携帯番号はすでに前回顔を合わせたときに入手済みだったので、変わってなければいいなと思いつつ、電話帳を開いた。
これに面食らったのは小太りの彼以下、その場にいた全員である。
そんな彼らを軽く無視して、彼女は通話ボタンを押した。
コール2回で出た彼は「ずいぶん遅かったんだね」などと、開口一番に嫌味をくれたものだから、彼女は憤慨して盛大に舌打ちする。

「悪かったわね。思ったように飛行船のチケットが取れなかったのよ。とりあえず彼らは門のところまで来てるわ」
『ああ、そう。やっぱりきたんだ』

会話をしつつ部屋を出て、門の前まで移動した。
小太りの男が焦って追いかけてくるのが見えたが、それも軽くスルー。

「あたりまえでしょう・・・じゃあ、私これから中に入るわ。執事さんのところに行くのでいいのかしら?」
『うん、よろしく』

彼女は携帯を切って、駆け寄ってきた小太りの男とそれに続く今まで一緒に行動していた彼らを見やる。

「じゃ、そういうことなので」

軽く門に手を触れた彼女はしかし、見た目に相反するような力でもってその門を押した。
グゴゴゴ・・・といやに重い音を立てて、その門は開く。
あっけにとられた彼らを前に、彼女は吸い込まれるようにして門の内側へと姿をけした。

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