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「何度でもいうわ。ヒソカは黒よ」
季節はとうとう夏。
まだ7月だというのにうだるような暑さだ、とテレビの中の気象予報士は伝えている。
ブラウン管の彼には申し訳ないが、その暑さを実感したことは未だにないと密かに思い、は携帯を持つ手を変えた。
「別に信じてほしいなんていわないけれど、私はあいつが信用できない。マチも同じ意見よ」
与えられた馬鹿でかい個室のこれまたでかいベッドに腰をかけながら、彼女は缶コーヒーをあおる。
電話の相手は先ほどから沈黙しており、つけっぱなしのテレビでは各地の天気予報が流れていた。
「・・・というか、あなたもそう思ってるんでしょ、シャル」
『・・・まあね』
苦笑しながら肩をすくめる彼の姿が見えた気がして、はふっと唇を緩めたがしかし、今現在の事態は芳しくない。
「あいつ、正直言ってクロロと戦いたいだけよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
『うん・・・』
「それにあのピエロの事だもの、なかなか戦えないとなれば手段なんか選ばなくなるんじゃないかしら」
『夜這いでもするって?』
「面白いこというわね。けど不正解よ」
今の発言を当の本人たちが聞いたらきっと、一人は泣きそうなぐらい顔をゆがめて、もう一人は「ああ、それもイイ」なんてうれしそうな顔をするに違いない。
腐女子としてはなかなかおいしいシチュエーションだが、一応襲われる側は恋人であるのでそんなことは言わないでおく。
「"ノストラード"ファミリーはわかるかしら?」
『わかる。十老頭傍系組の中規模組織で、組頭はたしか』
「ライト=ノストラード。その一人娘のネオンって子、面白い能力を持ってるわ」
『へぇ・・・クロロ気に入るかな』
「たぶんね・・・というか、もしかしたらもう知ってて目星つけてるかもよ。その子9月1日くるから」
『あ、そうなんだ。じゃあ狙ってる可能性たかいなぁ・・・妬ける?』
彼女は思わずため息をついた。
「シャル、あなたいつも一言多いのよ」
『あはは、ほめ言葉だと思っとく』
「・・・まぁそれで。そのノストラードの娘のボディガードの中に、ピエロと徒党を組んでる奴がいるの」
『・・・男?』
「先に言っとくわシャル、その男は色仕掛けに屈しないし、私その人に面割れてるから下手に動けない」
『何で面割れてんの?』
「ハンター試験の同期なの。試験中にどうやら協定を結んだらしいんだけど、どういう約束までかはわからなかったわ」
『そうなんだ・・・』
「使えなくて悪いわね」
先に謝られてしまっては「仕方ないよ」というしかない。
彼はやれやれと息を吐いた。
『情報だけでも十分だよ』
「いつも贔屓にしてくれてるお得意様ですからね、サービスぐらいしてあげるわ」
ならサービスついでにその男を一思いに殺してきてくれと思ったものの、シャルは「ふむ・・・」とあごに手を当てた。
おそらく彼女であれば、それは造作もないことのはず。
いくら面が割れているからといっても、相手は念を覚えたての新人ハンター。
それこそ赤子の手を捻るようなものではないのか。
―――・・・だとすれば考えられることは3つ。
1つ、彼女がうそをついている。
2つ、彼女が言っているのは本当だが彼女もグル。
3つ、彼女に何か策がある。
1つ目は、嘘をつくメリットが見当たらないので、ない。
2つ目もメリットはない、もしあるとすれば彼女が何らかの事情で彼らに脅されている場合だが、彼女に限ってそれはありえない。
ならば3つ目、彼女に何か策があるということ。
シャルナークは今度こそ深いため息をついた。
『僕たちはまだ、その男に手を出さないほうがいいのかな』
「正解。私は彼の顔がわかるし大体の行動も把握できるけど、あんた達血の気が多い奴が多すぎなんだもの」
どうせ原作をひっくり返すなら完全無血を目指そうとしているのだ。
教えたとたんに彼が殺されたのでは目も当てられない。
「もし何かあったら私が動くから、それまでおとなしくしてほしい」
『オーケー了解。あ、もし報酬上乗せするならクロロにいってよね、僕はなぁんにも聞いてないんだから』
おどけていう彼に少し笑って、彼女は「上乗せしないわ」とつぶやいた。
「それよりいいものもらうから」
『イイモノ?』
「それは内緒」
『露骨に内緒にされると気になるなぁ』
苦笑するようにいう彼に、彼女は楽しそうに笑った。
クロロ、あなた達を守ってあげる。
だから、そうね、見合う報酬がほしいのよ。
私は今のところそんなにほしいものはないわ。
だから、ひとつ約束がほしいの。
あなたが約束してくれなければだめよ、クロロ。
もし、この先誰も死ななかったら――――私に、居場所を頂戴。
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