|
「あ、いた!! !」
「ゴン、キルア」
駆け寄ってきた少年たちにを真正面で迎えて、彼女は笑った。
痛そうに腫れ上がったゴンの顔には満面の笑みが広がっている。
うん、これなら大丈夫そうね――彼女は彼があの鬼畜ピエロに負けて相当悔しがっていると思っていたのだが、後に引きずってはいないらしい。
その辺キルアより大人なのか、単純なのかは定かではないけれど。
「試合みたわ。結果は残念だったけど・・・」
「ううん、いいんだ!ヒソカを一発ぶん殴れたもん!」
「どーだか。昨日はずーっとぶーたれてたくせに」
「ムッ!!」
彼女は「あーはいはい喧嘩しない喧嘩しない」と少年たちをため息混じりになだめてから「どうしたの?」と先を促した。
まあ、おそらく別れの挨拶だと思うが。
「うん、あのね、俺たち今日家に帰るから、挨拶しにきたんだ」
「あらそうなの? 残念ね、また会ったら一緒にご飯でもたべましょ」
「うん、それでね、あのさぁ」
「は9月から予定あんの?」
口ごもるゴンをさえぎってキルアがその猫目をまっすぐに向けてきた。
最近彼はに対してあまり抵抗がなくなったらしく、というかなくなりすぎて逆に積極的になったほどだ。
野良猫みたいに急にフッと現れては、彼女のおやつをあさっていく。
怒るのを通り越してあきれた彼女が今日までの間、自分の分だけではなくてキルア用のおやつまで毎日仕入れていたのは、ゴンに内緒であった。
「ええ、ちょうど長期の仕事が入ってるわ」
明らかに残念そうな顔をした少年たちは口をそろえて「えー、長期なのー」だの「予定とか入れんなよ」だのいっている。
苦笑した彼女だった。
「何かあるの?」
「ヨークシンシティでオークションがあるんだ」
「それで、クラピカとレオリオに会う約束してるんだ!」
「あら、ヨークシンなの?」
彼女は白々しくも「私の仕事先、ヨークシンなのよ」と驚いた風を装う。
「ほんとに!?」
「じゃあさじゃあさ!仕事の合間に会おうぜ!昼飯とかさ!」
「ええ、かまわないわよそのぐらい」
むしろクラピカを見張ることができて大歓迎だ。
それに自分は試験中、彼にあまりよく思われていなかったせいもあって、彼が蜘蛛をうらんでいることを知らないでいると彼らには思われている。
おそらく今も警戒しているだろうし、仕事の話は彼からはしないはず。
もし彼女のいる前で話すとすれば、ゴンやキルアが自分は安全だと太鼓判を押したときである。
彼女は内心うなづいた。
「じゃあ私の携帯番号教えておくから、何か用があるなら連絡してちょうだい」
そうして彼女はポーチの中からレシートを取り出して、自分の携帯の番号とメールアドレスを書き綴る。
ゴンが携帯を持っていないのは知っていたので、渡すのはキルアにした。
「ありがと!俺も携帯買ったら連絡するからね!」
「ええ、まってるわ・・・ほら、早く行かないと、間に合わなくなるんじゃない?」
彼女の言葉に彼らは一瞬しまった、という顔をして足早に「じゃあ、9月ね!」と背中を向けた。
その後ろで彼女がにっこりと笑いながら、心の中で謝罪を口にしているとも知らずに。
「ああ、マスター? 私よ」
『新手の詐欺は結構だ』
「結構古い詐欺だと思うわ」
ずいぶん久しぶりに聞いたその声に彼女は口の端を緩めた。
思えば結構長い付き合いになる厳しい顔の彼だが、私生活はほとんど知らない。
そんなことを思いながら彼女が「9月の件で」というと、彼は「ああ」とため息混じりにつぶやいた。
『金は前払いで全額もらってある。詳しいことはじかに話すそうだ』
「そう、わかったわ」
『それと10月だか11月だかに新規の客から依頼が来てるぞ』
「あら、結構先なのによくもまあ・・・内容は?」
『ハンター専用ソフトグリードアイランドの攻略』
「・・・」
彼女は久しぶりに、あの言葉が頭を駆け巡った。
いわく、ドリーム小説である、と。
しかしそれはまだ先のことであるので、とりあえず保留である。
「・・・一応それ、保留にしておいて。9月の仕事がきりあがったら詳しく聞くわ」
『わかった。じゃあ切るぞ』
「はいはい、またね」
耳に届くツー、ツー、という音を聞きながら、彼女は頭を抱えた。
|