「お前にはこの仕事が終わるまで、俺のボディガード及び荷物の運搬をしてもらう」

その漆黒の瞳には眼下に広がる街の灯りがチラチラと映りこんでいて、サァと吹き抜ける風に彼の羽織る外套が揺れる。
彼女はふっと笑って「わかったわ」とつぶやいた。
今日は8月31日。
幻影旅団はその傍らにブラッドウルフを従えて、ヨークシンシティの明るい闇へ消えた。













コルトピが廃ビルを増やしていくのを傍らで見ながら、彼女は鉄線の手入れをしていた。
決戦はすでに明日から始まってしまう。
今のうちに手入れをしておかなければすぐに錆びてしまう気がしてならなかった。

これからは1日単位でことが進んでいくはずである。
明日にはヨークシンドリームオークションが開催され、地下競売場で蜘蛛が暴れ、そのときウボォーがつかまる。
次の日にはクラピカと対戦して鎖を切らなければ死んでしまうし、パクノダはつかまってしまう。
その次の日には蜘蛛による同時多発テロ。
そしてさらにその後パクノダの鎖を断ち切れなければ、パクノダは死亡・・・。

彼女はふっと笑った。
いくら命があっても足りそうにないのに、なんだろう、この高揚感は。
手入れの終わった鉄線を彼女はいつもどおり髪の中に忍ばせ「コルトピ、なんかふやしすぎじゃない?」と未だに【神の左手悪魔の右手―ギャラリーフェイク―】で廃ビルを作っていた彼に声をかける。
返ってきたのは「あ、ほんとだ・・・まあいいや」という彼らしい呟きだった。

「さて。今回の仕事はいつもより大事になると思う。だから、助っ人を呼んだ」
「って・・・団長、ただ単にイチャイチャしたかっただけじゃないの」

うっとつまった彼は見なかったことにして、は「大体2週間ぐらいだとおもうけど、よろしく」と団員に挨拶する。
といっても、ここ半年の間暇があれば仮宿に顔を出していたせいで全員と面識があった。
シャルナークとフェイタン、パクノダあたりは大概クロロといるせいで世間話をする仲であるし、マチに関しては一緒にあの鬼畜ピエロと戦った(精神的な意味で)仲である。
あまりにも形式的な挨拶であったため団員から「なんか面白いこと言えよー!」と変な野次が飛んだ。
それに真っ黒な笑みで答えた彼女は一言「布団が吹っ飛んだ」と口にした。
吹っ飛んだのはみんなの意識だと、誰かがうまいことをいったのは後の話である。






















「どうした、難しい顔して」
「ん・・・」

ベッドの端に腰掛けて物思いにふけっていた彼女は、彼の声に顔を上げた。
先ほどの団長姿はどこへやら、いつものラフな彼がそこにいる。
彼女はちょっとだけ笑って、彼を隣へ招いた。

「すこしね、考え事」
「明日のことか」
「そうね・・・本当はあなたのことだけ守ればいいのなら、簡単なのだけど・・・そうもいかないとおもうわ」
「・・・」

隣に座った彼の太ももにゴロンと頭を預けて、瞼を下ろす。
彼の匂いと血潮の音に意識を奪われそうになるが、それではすぐに明日になってしまう。
彼女は珍しいことに、少し怖かったのだ。
それは向こうの知識があるが故の不安、原作を変えてしまうという恐れ。

「今まで何人も、この手で殺めてきたけれど」

彼女は瞼をあげて彼の太ももに頭を預けたまま仰向けになり、真上にある彼の顔へその手を伸ばした。
触れた彼の頬はどこか冷たい。

「こんなに怖いと思ったのは初めてよ。・・・笑ってしまうでしょう?」
「・・・いや」

彼は伸ばされた彼女の手をとり、それを口元へ運ぶ。
一瞬息がかかり、すぐにやわらかい感触が彼女の指先にあたった。
彼女は一瞬くすぐったそうに目を細めてから、反対側の手を彼の首に回し起き上がる。
それと同時かその後に彼がベッドに倒れこんだものだから、一緒にベッドへダイブしてしまった。
それにのどの奥で笑いながら、彼女は少し起き上がって彼のその漆黒の瞳を見つめる。

「守るわ」

彼女のその深く淀んだ緑の瞳の奥に、なにやら固い決意のようなものを見て取って、彼はふと微笑んだ。

「あなたも、蜘蛛も、守ってあげる」
「・・・頼もしい言葉だな」

やさしく髪をなでるその指に、彼女は目を細めた。

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