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彼女の手が詩をつむぐのを、彼と彼女はジッと見つめていた。
ちなみに彼女はこちら側の誕生日も血液型もわからないので、向こう側のものを書いて渡してある。
果たして・・・―――先に書きあがった彼の詩を読んだとき、彼女はその瞳を見開くことになった。
"大切な暦が一部隠されて
残された月達は盛大に騒ぐだろう
紅く染め上げられた楽団の奏でる旋律でも
霜月はその姿を現さない"
―――・・・変わっている。
そして、当たっている。
彼女の背中に得体の知れない何かが走り抜けた。彼の表情をチラリと伺えば、何か考えた風な顔を作って固まっている。
そして・・・―――彼女の詩が書きあがった。
そこにはただ2篇の詩があるだけ。
"大切な暦を一部隠して
貴女は一人泣き伏すだろう
紅く染め上げられた楽団の奏でる旋律は
貴女の心に悲しく響く"
"菊が葉もろとも涸れ落ちて
血塗られた緋の目の地に臥す傍らで
紅い犬を緋の目に仕掛けてはいけない
かの犬は貴女に眠りを強いるモノ"
「・・・」
「・・・」
クロロの黒く透き通った瞳を視界からはずして、彼女は小さく「後で」とつぶやく。
それを聞き取ったのか、彼はパッと表情を変えて目の前の少女に「君の占いすごいね」と笑いかけた。
【密室遊魚―インドアフィッシュ―】が優雅に泳ぐその部屋の窓から、彼女は街の灯りを静かに見つめていた。
ちらちらきらきらと輝く灯りと、パッと急に明るくなる弾光。
彼女の深く淀んだ緑の瞳は、それらを吸い込み写してはいなかった。
彼は襲ってきた男がほとんど魚に食われた状態になってから、その厚いガラス窓を開け放つ。
完全に降りきった窓のふちに彼女は腰掛けて、その花火にも似た音に耳を澄ました。
彼はその隣にたって、あの詩に在ったとおり――原作のとおりに、その指揮棒を持たない手で指を振う。
それが一頻り終わった後で、彼女は口を開いた。
「・・・クロロ」
「ん」
「ごめんね」
彼は彼女の隣に腰を下ろす。
眼下に広がるのは街の灯りと一瞬の弾光、それと花火に似た発砲音。
「・・・いや、なんとなく引っかかってたからな」
「うん・・・ウボォー、生きてるよ」
「ん・・・そうか」
彼は、彼女の肩が少し震えていることに気づいた。
「2編しか、なかった」
「・・・」
「・・・私」
彼女はそこで少し息を吐き出した。
うつむいた顔は髪で隠れてその表情をうかがうことはできないが、しかし・・・。
「わたし、来週、死」
「死なせない」
彼は、彼にしては珍しく彼女の顔を乱暴に彼の方へ向かせた。
その驚いて見開かれた緑の瞳は思ったとおり涙に濡れていて、街の灯りと一瞬の弾光をキラキラと跳ね返し、まるで翡翠の様に輝いている。
頬に零れ落ちた涙を指ですくって、彼はその黒く透き通った瞳をまっすぐ彼女に向けた。
「俺が死なせない。それにあの詩のとおりなら、緋の目に・・・鎖野郎にあの紅い狼を使わなければいいだけだ。そうだろ」
「・・・ん、そう、ね」
―――・・・クロロ。
彼女は笑う。その涙で濡れた翡翠の瞳を瞼で隠して。
―――・・・私は・・・。
瞼で隠したその下で、彼女は泣きながら暗い笑みを浮かべた。
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