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「・・・来たわ」
「ああ・・・」
彼女は手に愛用の鉄線を握り、彼の隣に立つ。
垂れ幕の下がったステージを背後に、彼らは真正面の出入り口から大きな2つの気配を感じ取っていた。
深く淀んだ緑の瞳と黒く透き通った瞳に、大柄の男と小柄な年のいっている男を写し一拍おいたその瞬間――彼らの姿が消えた、否、すばやく動いたために消えて見えたのだ。
大柄の男の繰り出した中段蹴りを彼は鮮やかに交わし、彼の後ろに回りこんでいた年のいった男のそのさらに後ろを彼女の鉄線が襲う。
男はそれを危なげもなくよけて後ろへ飛びのき、彼女がそれを追った。
大柄な男はクロロの頭めけて中段蹴りの返しを繰り出したがこれも外す。
クロロは返しをよけた反動を利用して間合いをあけるが、それは大柄な男によってすぐつめられてしまった。
大柄な男の鋭いこぶしが、クロロの顔を狙う。それをよけられないと判断した彼は両腕でガードするものの、その威力で後方へ吹き飛ばされた。
一方彼女は鉄線が通じないと感じるや否やそれを髪の中に戻し、男の懐に入り左手で体の一箇所を触る作戦に出る。
だが、簡単に懐に入れるわけもなく、彼女の左手は空を切った。
彼女は盛大に舌打ちして、ベンズナイフを片手に大柄の男と対峙しているクロロの横に後退した。
それを追う様にして年のいった男も大柄の男の隣へと下る。
「まったくやりづらい・・・」
「・・・それはこっちの台詞よ。ゼノ=ゾルディック」
「ほぅ。やはりお主の情報収集能力は大したものじゃよ、ブラッドウルフ」
彼女は口の端だけで笑った。
曰く、食えないジジィだ、と。
その横で彼も同じことを思っているらしく、彼は少し息を吐き出してベンズナイフを後ろへ投げ捨てた。
「シルバ、サポートせい。ワシが奴らの動きを止めたら、ワシともどもで構わん、殺れ」
無茶をいう―――が、彼らならやるだろう、と彼女はその深く淀んだ瞳を暗く光らせる。
ゼノの右手にオーラが集中し始めたその瞬間に、彼は【盗賊の極意―スキルハンター―】を発動させ、彼女は【束縛からの解放―フェンリル―】に跨った。
一泊遅れて彼の手から【牙突―ドラゴンランス―】が繰り出される。
彼女は右に彼は左に避け【牙突―ドラゴンランス―】が彼の方に向かうと確認したやいなや、彼女はシルバに向かって狼を駈けさせ鉄線を髪の中から引き抜き振り下ろした。
だがシルバはそれを軽々と――大柄な体なのに小回りが利くとはどうしたことかと彼女は目を見張った――避け、その両手に莫大なオーラを溜め込む。
彼女はハッとして狼を彼のほうに方向転換させた。
彼はゼノの繰り出す拳の雨で動きを封じられている。
「今じゃ!!殺れ!!」
―――・・・間に合え!!
ピピピピピ・・・
先ほどまで美しい装飾が施されていた壁に大穴があいて半壊した部屋に、似つかわしくない電子音が響いた。
シルバは特に無表情のっま懐から卵型の無線機を取り出す。
「イルミか・・・ここにいる」
その声とほぼ同時に、彼の目の前の瓦礫がガラリと音を立てて崩れた。
現れたのは3人。――3人ともボロボロだが自分で立てないほどの怪我は負っていなかった。
彼女は乱れた緑を帯びた黒い髪をサッと手で直す。
ところどころ服は破れていて彼女は顔をしかめた。しかもクロロはそれよりひどい。
一瞬服代を請求しようかと本気で思った彼女である。
「今瓦礫の下から出した・・・そうか。伝えておく」
「・・・イルミからかしら?」
「ああ。『十老頭は始末した約束の口座に入金よろしく』との伝言だ」
「・・・シルバさん、覚えていたらでいいから、イルミに伝えてほしいのだけれど」
「なんだ」
「依頼被ったら教えろって」
ちょっと睨むと彼は少しだけその口の端を緩め「伝えておく」と背を向けて、来たときと同じ出入り口から出て行った。
それを見届けて、彼と彼女はお互いに息を吐く。
「・・・しんどー」
そう言って床に寝転んだ彼に笑って、彼女も彼の腕を枕に寝転んだ。
「帰ったら、まずお風呂に入りたいわ」
「一緒に?」
「・・・入りたい?」
息の掛かるほど近くにあるお互いの顔を見合わせて、彼らはもう一度笑った。 |