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「」
彼女は己を呼ぶ声にに瞼を上げようとしたが、重くてかなわなかった。
いつかのデジャブのようだと感じながら、彼女は笑う。
「・・・!」
息を呑む音が聞こえて、彼女は訝しく思った。
夢はいつも、母親が話す声が一方的にするものなのに。
あの息を呑む音は妙にリアルで―――・・・それに、この鼻腔をつく薬品の・・・消毒液のにおい。
病院の、匂いだ。
「!!?」
彼女は自分の意識が浮上していくのを感じていた。
しかし、母親の声は遠くならない―――・・・逆に、近くなっていく。
まさか。
まさか、そんな。
彼女は懇親の力をこめて、鉛のように思い瞼を押し上げた。
「・・・っ!!」
目の前にあったのは、記憶の中よりずいぶんと痩せた母親の泣きはらした顔だった。
「まってね、今リンゴむくから」
「・・・うん」
彼女は始めてみるその、白を貴重とした病院の個室をじっくりと見渡した。
ベッドの質感、匂い、開いた窓から入るやさしい秋風。
遠めに写る町並みは、記憶の中にあるあの町。
自分が生まれ育った町。
彼女はそれをただただ呆然と見つめていた。
あまりにも唐突過ぎる、夢の終わりに、ただ呆然としていた。
面会時間が終わり、母親は笑顔で「また明日もくるから!」と出て行く。
それを見送ってから、彼女はふと違和感に襲われた。
何か、おかしい。
どこがどう、というわけではない、なんだろう・・・底知れぬ不安が胸の中でとぐろを巻いているようだ。
彼女は落ち着こうとして備え付けの洗面台に水を汲みに良き、その違和感に気づいた。
瞳の色が、緑だったのである。
彼女はまさかと思いつつ"念"を"いつものとおり"に発動させた。
あの紅い狼は果たして―――"いつものとおり"に彼女の傍らに姿を現したのである。
「・・・まさか」
ハンター世界の自分の体に、何らかの・・・意識を保てないほどの衝撃が加えられたのか、あるいは・・・。
「いや・・・そうか、そうだった」
そこまで来て彼女は、こちらで目覚めるまでの記憶を思い出した。
そう、彼女は連日念を使いすぎていたのだ。
あの後アジトへ戻り団員メンバーと合流した後、宴があった。
彼女はその途中で体に限界を感じ、自分の部屋でベッドに倒れこんだ。
そこで記憶は途切れている。
だとしたらまず自分が向こうで死んだわけではない。
おそらくまた1年前のように眠れば向こうの世界へ意識は飛ぶはずである。
だが、問題は時間だ。
彼女は母親が持ってきていたのであろう、彼女が長年愛用している目覚まし時計を見た。
18時を少し回ったところだ。
――――・・・まずい。
その横のカレンダー―丁寧に前日まで×がついていた―を見れば今日は9月4日。
非常にまずい。
記憶違いでなければ、パクノダは20時までにリンゴーン空港へ行くはず。
19時半前までに団員はアジトへ戻ってくるはずであるから、それまでに何とか眠って向こうで意識を覚醒させるしかない。
しかし必ず眠れる確証は、ない。
むしろこの切迫した状況下で眠れるほど、彼女は神経が図太いわけではなかった。
「・・・」
そして彼女の瞳に、それが写る。
彼女は致し方ないと思い、一度息を吐いてから半歩下がり、助走をつけて―――・・・ベッドのパイプに頭をぶつけた。
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