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「おいガキ!汚ぇぞ!!」
目の前をつんつん頭の少年とスーツの青年、金髪美人と銀髪猫少年が走っている。
彼女は意図して彼らの後ろに行ったわけではないのだが、さすがというかなんというか、主人公組なだけあり会話がおもしろ過ぎるのだ。
つまり、見てて飽きない。
今は年齢の話をしているようで、全員10代であることに騒いでいる。
思わずクスッと笑みをこぼしたら、まだあどけなさの残る顔が後ろを振り向いた。
「ああ、ごめんなさいね。あんまり楽しそうだったからつい」
笑顔で答えれば、少年は少し考えた顔をしてから周りの人を見回す。
彼女には謎の行動だったのだが、ほか3名は察したらしくなにやら笑ってうなずいていた。
「お姉さんもまざらろ?」
なるほど、そういうことか。
なんというドリーム小説という言葉が脳裏を掠めるがしかし、どうしたものだろう。
と、ちょっと考えているといつの間にか後ろを向いたらしい金髪美人と目が合った。
観察するような目をしているな、と思ったら横から「なんだクラピカ、そんなじっくり穴が開くほどみつめてよ」なんて揶揄する声が聞こえた。彼がそれにムッとして「違う!」と速否定するものだから、横槍を入れたスーツの男は余計面白がる。
「私は別に。ただ彼女のような女性が、この猛者の中生き残れるのかとおもっただけだ」
フンッと鼻を鳴らした彼だが、隣のスーツ男は「確かに」とうなづいた。
そんなに見た目非力だっただろうかと苦笑すれば、猫目の銀髪少年が「いや」と否定する。
「俺はたぶん、このねーちゃんは結構ヤると思うね」
最後の「どっかのおっさんよりはさ!」というところでスーツの男が「にゃにおー!!」と反応するものだから、しっちゃかめっちゃかだ。
「ケンカはやめなよ2人とも!なんかうるさくてごめんね、俺ゴン!」
走りながら差し出された手を、少しためらいながら彼女は握り返した。
その明るい笑顔がなんだかまぶしすぎて、変なところから色んな汁が出てきそうだと彼女は内心焦る。
さて、握ったからには名前を言わなければいけないわけだが。
「お姉さんの名前は?」
「・・・」
名前なんて無かった。
あちら側はちゃんとしたという名前があったけれども、こちらでの名前なんてない。
ハンターがつけた名前は、あのとき――彼を殺して解放されたときに無くした。
あの名前も自分を束縛していた1つだったから・・・だから、思い出せない。
仲介人であるバーのマスターは「名前なんてない」といったら「そうか」といっただけだった。
だから必要ない。・・・必要だったとしても、という名前は使いたくない。
あちら側での自分は、こんな汚れていないから。
あちら側での自分は、こんな姿じゃなかったから。
だから、使いたくない。汚したくない。名前なんていらない。必要ない・・・――そうでしょう・・・?
「・・・ちょっと・・・そう、ちょっとした事情があって、名前は教えられないわ」
「・・・そう、なんだ」
少年は残念そうにしたがそれ以上の追求は無かった。
隣のスーツ男も猫目少年も金髪美人も、ゴンが自己紹介をしたという理由だけで名前を教えてくれたが、彼女のことについてはそれから一切触れてこなかった・・・――というか、怪しいものには触れるべからずと思っている節のあるクラピカが、警戒心を強めたゆえに何も聞いてこなかっただけのようだが。
「ねぇ、団長機嫌悪くない?」
「・・・パクもそうおもう?」
淡々と虐殺を繰り返すオールバックの彼に、スーツを妖艶に着こなした女は少しだけ、違和感を覚えたのだ。
どこかイライラしているというか、焦っているというか。
「この前例の彼女にあっただろ?」
「ああ"ブラッドウルフ"ね・・・フェイタンとかも一緒にいったのに返り討ちにあったんでしょ?」
「うん。・・・で、甚くご執心だったもんだからリベンジするかと思ったんだけど」
彼は帰ってくるなり物凄く不機嫌そうな顔を珍しくつくり「もうあいつには興味が無い」と言ってのけたのだ。
驚いたのはシャルナークだけではなかった。
あそこで彼女と戦闘を行った全員がリベンジを希望していたのにも関わらず突然の「興味が失せたからリベンジはしない」発言。シャルナークが「それはないよ」と抗議したのだが聞き入れてもらえず、ついには団長命令を駆使してまで"ブラッドウルフ"に今後関わらないようにというお達しが出てしまった。
負けっぱなしなのは癪に障るし一発殴ってすっきりとさせたかったのだが、団長命令には如何せん逆らえない。
悶々としたままその後、彼女に関する一切の話題は旅団の中で消えてしまった。
「それからずっとだよ、クロロがあんななの」
「なんだか、おかしい感じね」
「・・・やっぱり彼女の念能力で何かされてるのかな・・・」
何かって何、と聞かれれば「判らない」としか言い様がないのだが、そうとしか考えられない。
あの急な心変わりはいくらなんでも不自然すぎる。
「・・・ん、ちょっとまって。仮に彼女が念能力で自分に興味をなくさせたとしたら・・・いいえ、そう考えるとしたら逆に自然だわ」
「?
・・・話が見えないんだけど」
「思いをどうこうするだなんて芸当は、大変なのよ。あなたみたいな操作系ならともかく、クロロのはちょっとちがうでしょう?
きっと中途半端なんだわ、掛かり具合が。だからクロロは念を掛けられて「自分は興味をなくした」つもりなのに、本当は物凄く心残りがあるのね・・・。だからイライラするんだわ」
「・・・なるほど」
一番有力な推測である。
だがそうなると、自分たちではどうしようもなくなってしまう。
クロロが自らを納得させてくれなくては、自分たちは動けない。
断末魔が響く血染めの屋敷の中、金髪の男とスーツの女はそろってため息をついた。 |