朝起きると、なんだか見たことあるような、みたなくなかったような紋章入りの(そして蝋印で封のしてある)封筒が2つ切手なし消印なしで入っていた。
本来ならこういうものは封を切らずに捨てるのが定石だが。

「・・・目、痛いなぁ」

先ほどから妙に目がうずくのはきっと、この中に[ユミルの心臓]を核として作られた、あの指輪が入っているから。
思わず目頭を揉んでため息をひとつ。
無視することは簡単。
捨てるのもきっとたやすい。
けれど届いた封筒は2つで、私宛と恭弥宛。
もし・・・もし、仮に恭弥がこの封筒を受け取って、指輪も受け取ったなら・・・私は。

「何してるの」

その声にはっとして振り返った。
少し眠そうな顔(くそっくそっかわいいなぁ!!)をした恭弥は欠伸をひとつ。

「おはよう恭弥」
「おはよう・・・で、その封筒、なに」
「あー・・・うん、これ恭弥宛。これ私の」

聊かいぶかしげに「ふーん?」とそれを手に取った恭弥はためらいなくその封を破り、おもむろにその封筒をひっくり返してコロン、と手に転がった指輪をしげしげと見つめた。
私はそれに内心ため息をついて(ああ、なんか興味持っちゃったぽいな・・・)私も封筒を開ける。
出てきたのはやっぱり指輪。

「いつかはこんな日が、くると思ってた」

口の中でつぶやいた言葉に恭弥は「何かいった?」ときいてきたけれど、私は笑って、なんでもないと首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


太古の昔世界には、大きな淵"ギンヌンガガプ"の両岸にある北のニヴルヘイムの氷と南のムスペルヘイムの炎を除いて、海も波も砂も大地も天も草も、何もなかった。
この淵の中で氷のいくつかが火の粉とぶつかり溶けた。
溶けた氷は毒気となり、さらにそれは雌雄同体の巨人ユミルと、彼を乳で養うことになる雌牛アウズンブラの体を作り出した。
雌牛アウズンブラはニヴルヘイムの霜氷を舐めることで食餌していたが、その氷の中には最初の神であるブーリが眠っており、雌牛アウズンブラが霜氷を舐め初めて3日後に、ブーリは氷の中から放たれ世界に住まうようになった。

ユミルの身体の各所から何人もの巨人が産み出され、世界は"巨人と神々の世界"になった。

あるとき、最初に生まれた神ブーリの息子ボルが、ユミルの一族である霜の巨人ボルソルンの娘ベストラと結婚し、オーディン、ヴィリ、ヴェーの三神が生まれた。
巨人達は非常に乱暴で神々と常に対立していたが、巨人の王となっていたユミルはこの三神に倒された。
この時、ユミルから流れ出た血は大洪水へと変わり、ユミルの孫にあたるベルゲルミルとその妻以外の巨人は洪水にのまれ死んでしまった。

三神はユミルを解体し、血から海や川を、身体から大地を、骨から山を、歯と骨から岩石を、髪の毛から草花を、睫毛から人間の住まう場所"ミズガルズ"を囲う防壁を、脳髄から雲を造り、ユミルの頭蓋を持ち上げる4人の小人、ノルズリ(北)、スズリ(南)アウストリ(東)とヴェストリ(西)を置いて天を構築した。

そして血がすべてなくなり小さく硬くなった心臓は少しずつ砕けながら、赤い塊となって大地の中に埋もれた。



その赤い塊は少しずつ少しずつ砕けて小さくなりながら幾億年の年月を経て、ある鉱山で発見される。
幾人もの手を渡り歩いたその赤い塊は、とある細工職人の手に渡りそこでさらに4つに分けられ、そのうちの一番小さくなった1つはさらに3等分に。そして残りの3つはさらに7等分にして、彼は3種類の"指輪"を作った。
そして7等分にされたほうの指輪をそれぞれ「大空」「嵐」「雨」「霧」「雲」「雷」「晴」とし、3等分にされたほうの指輪を「雪」とした。
細工職人の手を離れた指輪はそれぞれ別々の組織に送られ、それが後に"ボンゴレリング"・"マーレリング"・"アルコバレーノのおしゃぶり"とよばれるようになるのである。









 

「よく・・・そこまで調べたな」

ふぅ、とため息混じりにつぶやかれた言葉に私は苦笑して「調べたのは父です」と口にした。
あの人は本当に私を気にかけてくれていたから。
本当の娘のように・・・気にかけていてくれたから。
恭弥にもらった黒いキャスケットをグイッと下に引き下げる。

「私と骸の瞳に埋め込まれた[ユミルの心臓]は、本当に偶然見つかったらしくて・・・鉱山は別の場所でしたが、もしかしたら鉱脈がつながっていたのかも、と父は言っていましたが・・・」
「ふむ・・・」
「・・・でも、笑っちゃうでしょう、ほんとに。本当ならこんな話・・・御伽噺もいいところなのに」
「・・・ああ」

つぶやいた彼・・・ボンゴレファミリー門外顧問・沢田家光(どうやら沢田綱吉の父親らしい。彼から聞くに、沢田綱吉はボンゴレの時期ボス候補に挙がっているらしく、今回の騒動はそれが発端だそうだ。まったく、迷惑極まりない)は恭弥とキャバッローネファミリーの跳ね馬の戦闘訓練(なのか、あれは。ただ暴れてるだけじゃないのかと叫びたい)を横目でちらちらと見ながらも相槌を打った。
私は笑ってから「もう、次のところへいったらどうですか」と進める。

「あの二人なら、私が見てますし」

というか、危なくなったらとめる。
絶対、何が何でもとめる。戦闘訓練で倒れられちゃぜんぜん意味ないし。
てか、また入院騒ぎになるのなんか嫌だし。
門外顧問はふむ、一瞬考えた後で口を開く。

「アルバ=アル」
です」

有無を言わさぬ私の否定に門外顧問は「そうだった・・・すまない」と苦笑してから、真顔になった。

「リボーンから君の事を聞いたとき、正直戸惑ってしまったんだ。まさか、本当に"ネーヴェ・ウッシェンテ"が現れたのかって」
「"終焉の雪"かどうかは、正直私自身もわかりません。エストラーネオで私は確かにボスにはそう呼ばれていましたが・・・後にも先にもそう呼んでいたのはボスだけ。私のことはずっと、研究チームのチーフだった父が見てましたし。その父は・・・私のことはAlba・Albicare(白い夜明け)と呼んでましたしね」

そしてもうすでに、その呼び名を呼ぶものはいない。
今は恭弥の小さな兎の""だ。
そうやって小さく笑った私を、門外顧問はじっと見つめていたが、急に「うん」とうなづいて笑った。

「君が何であれ、その雪のリングは君が受け取ってくれ。それは初代から2代目に代替わりしてからずっと"雪の守護者"が現れるまで封印されていて、結局一度も封印がとかれることなく、ついにはハーフにならなかったという年代ものだ。・・・ずっと、君を待っていた代物なんだよ」

何事も吹っ飛ばすような明るい笑顔に私は苦笑して、ひとつうなづいて「でも」とひとつ訂正を入れる。

「私がこっちにつくのは恭弥がいるからですよ。勘違いはしないでくださいね」

ニッと笑った私に返されたのは、またしても明るい笑顔で。
調子狂うなぁ、と次第に苦笑になっていく私がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は戦う前に指輪の話をしてえ。騙してるみてーでスッキリしねぇからな」
「いいよ興味ないから」

跳ね馬の言葉に恭弥ニヤリと口元をゆがめて「あなたをグチャグチャにすること以外」と口にする。
あーあ。先に戦闘力なんか見せるからもうぜんぜん聞く気ないじゃない、恭弥。(でも口調が丁寧なのはやっぱり彼を格上と見ている証拠だ。跳ね馬は伊達じゃない)
まあ別にいいんだけどさ、指輪の話なんて。
正直こんな指輪、私を・・・ひいては恭弥を裏社会に縛りつけるだけだし。

「真剣にやってくれないと、この指輪捨てるよ?」

なんていってる時点でこの指輪が何かのキーパーソンで、ものすごく重大な何かであると彼は気づいてる。
だからこその挑発文句だ。
それに果たして、跳ね馬は気がついているのだろうか。
私は深くかぶった黒いキャスケットの鍔越しに、彼らを見据えた。

―――・・・恭弥はきっと、私が"この指輪を捨てられない"ことに気づいてる。

だから、きっとあの指輪を彼は"捨てられない"。
そしてその指輪が"奪われる"ことがあるならば彼は、全力でそれを奪い返すだろう。

なぜなら、彼と私は「ずっと、何があっても、傍にいる」と約束してしまったから。
私がその約束を破ることはないし、彼もきっと、違えることはしない。

―――・・・強くなって、恭弥

誰にも負けないぐらいに。
誰にもその指輪を奪われないぐらいに。
そうしたら・・・――――。

私は静かに息を吐いて、瞼を下ろした。



ものすごい捏造入れました。ご容赦ください・・・。
ユミルの心臓のくだりは北欧神話の"死体創世説"をモチーフにしています。
ていうか、心臓以外はそのまんまなんですけど。

このくだりは単行本24巻の標的218"到着"内で語られているトゥリニセッテの設定を読んだときにまるで掲示のごとく頭に浮かんだ捏造だったりします。
(作者は思いっきり単行本派です。本誌は読んでないので、矛盾してるかもです。ごめんなさい)