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「まーだ写真終わんねーのか糞・・・」
語尾が消えたのはきっと私のせいだ。
まあ幸い写真がさっきのドアを開ける衝撃のせいでちらばったので、それを拾っていたふりをする。
金髪の彼の妙な視線がすごく気になるが、とりあえず写真を集めてセナの机の上に乗せた。
「えっと、じゃ、私これ・・・」
「おいまてそこの糞小動物」
・・・。
これは私のことか。
セナ君くんはたしか糞チビ。栗田さんは糞デブ。・・・やっぱ私か。
しかし、小動物とはなんぞ・・・。
戸惑っているとイライラしたのか、ヒル魔はジャキッとライフルの銃口を私に向けて「テメェだよテメェ!」
とその鋭い牙――アレは歯じゃないとおもう――をむき出しにした。
「ああああああのあの、わたわた」
落ち着け。いいから落ち着け。
「わた、し・・・えっと、御用・・・で、しょうか」
「・・・お前、前に会ったことないか」
「・・・は?」
脳裏に、どこかのキザなヤローが「お嬢さん、僕たち前にあったことあるよね、ほら、前世とか!」とか、キモイ台詞を言っている姿がよぎっていった。
「や・・・えと、初対面、です」
「・・・」
「・・・あの・・・」
白く固まってしまった私をじっと見つめるその三白眼はよく見るときれいな墨色で、あー元はやっぱり日本人なのね、と変な感慨を受ける。
―――・・・黒髪のほうが似合いそうだなぁ。
無論金髪のほうが安定感はあると思うが。
先に視線をはずしたのはヒル魔だった。
そして何事もなかったようにテレビの方へ向かっていく。
「ごめんね、急かしに来たわけじゃないから」
栗田はちょっと困ったように笑った。
「部室使えないとテレビあるのこの教室だけなんだ」
「そういえば何でうちの教室だけテレビが・・・」
「去年俺らがこのクラスだったんだよ」
「そ・・・そうですか・・・」
ふにゃふにゃと力なく笑うセナにちょっと笑って、私はそろーっと自分のカバンを持つ。
逃げるなら今。そう、今この瞬間しかない。
「おい」
「ヒッ」
バレバレですか、そうですか。
「ま、まだ何か・・・」
セナくんがなぜかかわいそうな物を見るような目で見ている。
ヤメテーそんな目でみないでー。
「糞小動物、お前も写真整理手伝っていけ」
「な・・・なんで私が」
「スカートなのに膝抱えて超爆睡」
「!!」
「今日は確か薄い青だよな?」
彼の内ポケットから、黒い手帳がチラリ。
や、やられたあああああああああああああああ!!!!
*****
「・・・チッ」
部室が改造中なのをすっかり忘れていた。
糞ジジィがマジで大工の親父みてぇな格好で作業しているのをチラッと見てから、俺は少しだけ息を吐いた。
アイツがいれば、あるいは勝てたかもしれないと、まだ思っている自分がいる。
それが許せない。
アイツはアイツで、いろいろあるんだ。でも必ず戻ってくる。―――・・・そう信じている。
――――・・・嘘だと思うかもしれないけど、お願い信じて・・・。
そういったヤツがいた。
もう5年も前のことだ。
全身ずぶぬれだったソイツは寒さなのか怖さなのかわからないが、ガクガクと震えていて、なんだかウサギを連想させた。
頭だけ真っ黒の、小さくてふわふわした小動物。
「・・・」
無糖ガムを膨らませながら、弁当の食えそうな場所を探す。
屋上が一番よさそうではあるが、今からいくのもめんどくさい。
―――・・・グラウンド横の芝生でいいか。
そう結論付けてさっさと方向転換する。
4月の風はぬるすぎだと思う。
この柔らかな風が耳の横を掠めるたびに、なぜか舌打をしたくなった。
―――・・・そして、気がついた。
風に乗って、歌が聞こえる。
そう、この歌・・・この歌は。
「・・・まさか」
何かにはじかれたように歌の聞こえる方向へ走った。
記憶によみがえる、あの声。あの歌。あの言葉。
お願い、と。
必ずまた会えるから、と。
―――・・・だから、お願い・・・そんな泣きそうな顔なんかしないで・・・。
「・・・居やがった・・・」
目の前に、ふわふわの真っ黒なショートカットがゆれている。
顔は膝に埋もれていて見えない。
でも、どうみても、5年前のアイツだ。
そう、この背中、髪、足。
覚えてる。こいつだ。
「・・・」
なぜか心臓が早い。
何で俺は声をかけられない?
あと1歩前に進んで、しゃがんで、肩に手を置けば、懐かしいあの顔が見られるはずだ。
「!」
迷ってるうちに目の前の黒髪が少し揺れて、体ごと斜めに傾ぐ。
俺はあわてて1歩大またに進んで、傾いだその小さくて温かな体を支えた。
「・・・寝てやがる・・・」
安らかなその寝顔になんだかドッと疲れた。
そしてそっと頭をなでる。いつもの俺にはてんで似合わない仕草だと、自分で自分を嘲笑った。
「やっと帰ってきやがったか。この糞小動物が」
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