「や・・・えと、初対面、です」
「・・・」

いわれると分かっていたセリフでも、いわれるとツライもんだ。
俺はきょとんと見開かれた茶色の瞳をじっと見つめた。
あまりにも無防備すぎる瞳の色に、ため息が出そうなのを何とかこらえてテレビの方へ体を向ける。
カチャリ、とカバンの外れる音がした。

「おい」
「ヒッ」

逃がさねぇ。

「ま、まだ何か・・・」

今度はぜってぇ、逃がさねぇ。
縄でふんじばってずるずると引きずることになっても、ぜってぇ逃がしてなんかやらねぇ。

「糞小動物、お前も写真整理手伝っていけ」
「な・・・なんで私が」
「スカートなのに膝抱えて超爆睡」
「!!」
「今日は確か薄い青だよな?」

内ポケットから、黒い手帳をチラリと見せる。
真っ赤になったその小動物は何回か口をぱくぱくさせて「うぅー・・・」と唸ってからセナの前のイスに座った。そしておもむろに写真の仕分けを始める。
セナと栗田は目を白黒させながら俺と小動物を交互に見て、お互いに「わけが分からない」という顔を見せた。

「あー・・・写真の整理終わってから帰れよ。全国大会決勝行きの準備はもう始まってんだ」
「へ?大会って・・・もう終わりじゃないんですか?」
「年に2回あるの。春大会と秋大会」

そういいながら栗田が菓子をポンポン開けていく。
一気に5本加えたポッキーが、しゃべるたびにぐらぐらゆれた。

「クリファクボウルにいけるのは秋の優勝者!」
「本番は秋だ。秋で勝ちゃいいのよ」

そういうとセナの瞳の色が変わった。
内心少し笑って、小動物を盗み見る。
真っ黒な小動物は手際よく桜庭とフォーメーションの写真を分けていた。













*****













ってか。
雨ふってますよお母様。カエレナイデス。
トイレによりたいがためにセナくんを先に返すんじゃなかった・・・。
まあたぶん居るけど。
確かあの後は縄のはしごでステップの練習をするはずだから・・・転びながら。

「・・・」

強いなあと思う。男の子だよ、セナくんは。
ちょっと笑って、ふっと息を吐き出した。
観念しよう、そろそろ。
この先私がデビルバッツに関ることで、未来が少し変わってしまうかもしれないけれど。
けど、でも。
私がこの世界に来たのは、きっとソウイウコトなんだと思うから。

「せーなーくーんー」
「!」

ドロドロになったセナが、はじかれたようにこっちを向いた。

「あんまりドロドロに汚れると、明日大変だよー!」












結局、私はアメフト部にマネージャーとして入部した。
それまでは姉崎さんが主務とマネージャーの仕事を両方ほとんどしていたので、結構ありがたがられた。・・・が。

「おい、糞小動物」
「・・・なんですかヒル魔さん」

どうやら私は小動物で固定のようだが・・・いや、確かに身長一番小さいんですよ。
151なんで。

「ちょっと頭かせ」
「なんでっスか」
「いいから貸せ。すぐ貸せ。今貸せ」

洗濯したいんですが、ヒル魔さん。

マネージャーっていうのは実は結構大変で、たとえば選手用にアクエリを用意したり―これは冷たすぎずぬるすぎずがベストなんだと姉崎さんに教えてもらった―練習後のスタミナ付けのためにオニギリをつくったり、レモンの蜂蜜付けも姉崎さんと交互につくって(蜂蜜付けは料理大好きマイマザーに教えてもらいました)ユニフォームの洗濯したり、用具をだしたり仕舞ったり(これは主に姉崎さんの仕事)。時々おつかいにいったりとか。
ただでさえこのアメフト部には人手が足りなくて、選手ですら時々練習の時間を割いてでも部員募集にひた走るし・・・私が入ったからには、というのじゃないけど・・・たとえばその時間を練習に当ててもらって
少しでもたくさん練習してほしい。
なんてったってこれからぶつかる選手達は強豪ばっかり、精鋭ばっかり、部員もたくさんいて。
みんないっぱいいっぱい練習をして来ている人たちばっかりだから。

・・・と、ごちゃごちゃ考えてるうちにヒル魔さんの長い指が私の短い髪に絡められた。
びっくりして顔をあげると(そうしないとヒル魔さんの顔がぜんぜん見れない)反対の手で下を向かされた。
どうやら私の髪で遊びたいらしい。
内心ため息をついて抵抗はしなかった。しても無駄なのは分かってるし、逆に面白がられるだけだ。
それに、髪をなでられるのは嫌いじゃない。
気持ちがいいし・・・まあ、やられすぎると眠くなってしまうのだが。

「・・・テメー、抵抗しねぇのか」
「しても無駄だとおもうんで」
「フーン」

"思惑が外れた"という声色がありありと聞き取れた。
ざまあみろ!といいたい。
怖いから言わないけど。

「・・・糞小動物」
「はい」
「テメー、髪伸ばせ」
「はい・・・?」

なぜ。なにゆえ?
ああ、遊びたいからですか?
たとえば今みたいに指を絡めてそれを口元に・・・ってあれえええええええ!?

「・・・シャンプー臭ぇ」

彼の呟きが甘く聞こえるのはきっと気のせいだ。
その呟きが耳元なのも、視界が全部金色の髪だっていうのも。
ちゅっなんてひそやかな音が聞こえたのも、全部幻聴だ。
幻聴であってええええええ!!

「―――・・・っ!?」

赤くなった私に、その金色の悪魔さんはニヤリと笑って見せて「なーに赤くなってんだ糞小動物」と
面白そうにのたまわってくれた。
ちくしょうてめぇ、それは反則ってヤツですよ。

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