今日はボロボロだ。
数学は途中の足し算で間違うし、古典では何回も教科書を落として先生に睨まれた。
英語で消しゴムを落としてなくし、化学の実験で試験管に亀裂を入れた。
そしてお昼・・・お財布を家に忘れていることに気がついた。
今日はいろいろボロボロだ。



ひもじい思いでグラウンドの芝生に腰を下ろす。
甘く噛まれたところは、今でも熱を持っているようだ。そんな感覚に襲われてしまう。
やっぱ病気だろうか。心の病なんだろうか。
赤くなっただろう顔を覆った。

「・・・おい糞小動物」
「ひぇい!?」

なんか変な声デター!?
と思って顔を上げると、言わずもがな金色のエロ悪魔様が立っていた。

「なーに一人で膝抱えてんだ」
「あ、えと」

いいながら悪魔様は許可も取らないで私の隣に腰を下ろす。
いや別に許可なんて要らないけど。

「や、なんか・・・いろいろボロボロでして」

あなたのせいで・・・とはいいませんが。
財布を忘れたのは私の不注意だし。

「ほう。この優しいヒル魔さまが悩みを聞いてやろう」
「・・・有料ですか」
「千円」
「1回?」
「1文字」
「ちょ!ぼったくりっすよ!」

面白くなって笑いながらいえば、ヒル魔は少し目を見開いて目をそらした。
・・・なんか変なこといったかな私。

「・・・糞小動物」
「はい?」
「今日、練習の後暇か」
「え、と。普通に家帰るだけですが」
「・・・よし」

そのとき。
私はその悪魔の笑顔に産毛がスタンディングオベレーションしたと思った。

「糞小動物」
「は・・・はい」
「今日ちょっと買い物付き合え」

先生。
私、今日無事に家へ帰れるんでしょうか。
















引っさげた買い物袋には今日のお夕飯の材料が入ってる。
まああまり手の込んだものは作れないけど、冷凍食品も味気なかったし。
なので特売の鱸の切り身とムニエルの素を買いました。
付け合せは粉吹き芋とアスパラとナスと赤ピーマンのソテー。
これでワンディッシュにすれば問題なかろうて。
何の問題かというと。

「ついたぞ、あがれ」
「・・・お、オジャマシマース・・・」

はいお約束。
なんかヒル魔さんの家でお夕飯を作ることになりました。
アッレェ?

私が玄関口でもたもたしている間に、ヒル魔さんはおくの部屋に行って何事かガタガタした後ヒョイッと顔をだして「お前は適当に飯つくってろ」と台所を示した。
ヒル魔さんの家はごく普通のアパートで、部屋はどうやら1つだけ。
キッチンは備え付けられてるけど・・・。
案外使っていそうなコンロとか、桶にたまった水とかが生活の跡をものすごく残していて、なんだがじんわりとした気持ちが広がってくる。
家族とは別に暮らしているらしく「泊まってってもいいんだぜ?」とニヤニヤしながらいってた。
誰が泊まるものか。
・・・あれ?

「ヒル魔さんー」
「んー?」
「ヒル魔さんて自炊してるんですか?」
「当たり前だろ」

何いってんだ糞小動物。
さも当然のように言い放つのはいいですが、想像いたしかねますよヒル魔さま。

「掃除とか苦手そうですけどね」
「・・・悪いか」

図星のようだ。
くすくす笑ってお皿に付け合せを先に盛り付ける。
マーガリンと塩コショウだけのこの味付けは、お母さん直伝なので自信アリです。
最後にムニエルを乗せて完成。

「お待ちどうさまです」
「ほー。見た目はまあまあいいじゃねぇか」
「味もいいとはおもいますよ」
「ほー?・・・まあ、イタダキマス」
「いただきます」

無言。
いやいいけど。
何もいわないならとりあえず普通にうまいんだろう。
・・・うん、普通。おいしいおいしい。

「おい」
「はい」
「そういやお前ん家、両親と暮らしてんのか」
「そーです。・・・が」
「が?」
「今日から1ヶ月私以外全員いなくって、短期間一人暮らしなんです」
「ほー?」

と、ヒル魔が思いついたように顔をあげた。

「あーもしかして、昼間のアレはそれか?」
「・・・まあ、そうです」

8割がたあなた様のせいですが。
思い出しただけでも穴があったら入りたい気分になるのだが、まあきっと、本人にとったら遊びとかそういう部類なんだろうな。
私の反応をみて楽しんでるみたいだし。
粉吹き芋を口に運びながらヒル魔を盗み見ると、眉間にしわを寄せて何か考えている風だった。
不審に思って首をかしげると、ハッとしたように一瞬真顔に戻って途端に悪魔の笑みを浮かべる。
・・・いやな予感。

「おい糞小動物」
「なんすか・・・」
「今日泊まってけ」
「・・・」

ポカーンと口をあけた。いや、何か来るとは踏んでた。
この選択肢だってあるのは分かってた。・・・だが。
だってあまりにもお約束過ぎる。
何ですかこの展開。

「なんて顔してんだ。襲わねぇよテメェなんざ」

いえ、そうでしょうとも。
そうでなければ困るんですが。

「それとも襲ってほしいのか?」
「めめめめめ滅相もございません」
「んじゃキマリ」

なん・・・なんでこうなるかなあああああ!?

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