「なん、ですって」

事件は日差しも柔らかくなり始めた、雪解けの季節に起きた。
電話越しのシャルナークの声は弱弱しく、いつものどこか飄々とした食えない男はナリを潜めている。
その電話を受けている彼女といえば・・・――。

「それで、ジルは・・・そう、判ったわ。銀髪の、大柄な男ね・・・――ええ、心当たりがあるの」

彼女の声は凍てついていた。
その言葉に感情の色は無く、表情もまるで雪のように白い。
ただ、その深く淀んだ緑の瞳だけが、その奥に暗く冷たい炎をゆらゆらと揺らしていた。

「とりあえず早く帰ってきて。・・・いいえ、追ってこないわ。彼はプロだもの・・・ああ、そう。ゾルディックよ・・・ええ、わかったわ」

彼女はその白い表情のまま電話を切り、細く長いため息をつく。
横で心配そうに成り行きを見ていた少女が「かーさん・・・」と遠慮気に彼女に問いかけた。

「・・・ジーくんどうか、した?」

ジーくん、本名はジルギム。
数年前に蜘蛛に入団してきた8番の男で、とにかくおしゃべりと昼寝が好きな男だった。
のお昼寝のお供はいつもジルギムだったのだが、実は彼の方がより深く眠ってしまうことが多く、そのたびにが起こしてあげるというのが日常風景である。
その、彼が。

「もう、会えなくなったわ」
「お家にもどってこないの?」
「ええ・・・」
「・・・死んじゃ、ったの」
「・・・ええ」

ここは本拠地。流星街。死は常に隣人であり、死神が友である街。
故に子供が"死"を認識し、理解するのもまた早い。
事少女に関しては、例の英才教育もあってのことであるが。
少女はその真っ黒な瞳を数回瞬きさせてから小さく「かーさん」と彼女を呼んだ。
その深く淀んだ緑の瞳と、真っ黒な瞳が交差する。
少女の瞳はクロロ譲りであるが、ずっと深く濁っていて逆に感情が読みづらい。

「かーさんは、会えなくならないよね」
「・・・」

判っているのだ、少女は。
の瞳の奥で暗く冷たく揺れる"復讐"という名の炎、その意味を。
彼女はそれでも尚少女の黒い瞳を見つめていたのだが、ふっと何かに観念してとても小さく「ならないわ」とつぶやいた。




















―――・・・何とか、回避できたねリライ。

少女は顔を洗い、瞳を閉じたままタオルを探す。

―――・・・本当になんとか、だった・・・まあいいけど。彼女のアクティブさには時々面食うよ、まったく。

指先に触れたやわらかいタオルの感触に少女はホッとして、それを顔に押し付けた。

―――・・・これでシズクが入団すればこっちは完璧だし、俺らはそろそろ次のステップに進んだほうが良いかなぁ。

使ったタオルを洗い物のカゴに入れて少女はふと、鏡を無表情に見やる。
その瞳の色は色違いに青々と輝いていた。
























「あれ・・・?」

洗面所から戻った彼女は、ふと、彼女が居ないことに気づいた。
先ほどまでは確かに気配はしていたのに・・・―――。

「・・・お姉ちゃん」

呼ばれたパクノダはいつもどおりにニッコリと笑って「何、」と振り返った。

「かーさん、どこ?」
「・・・買い物よ」

直感的に、うそだ、と思った。
彼女はいつも買い物は週末にまとめて買いにいくほうであるし、何よりいつも一緒に出かけるはずの彼の気配は健在なのだ。
と、いうよりも、買い物に行くのならばまず自分を誘うか、連れて行かない場合でも一言声をかけていくはずである。
少女はキュッと眉間にしわを寄せて、あのタロットカードが入っている、まるでポシェットのようなホルスターに触れた。

「・・・どこ?」
「・・・、あのね」
「【必然なる運命―ノルンズカード―】小アルカナ 剣の2!」
「っ!!」

少女は叫びながらタロットカードの小アルカナ"剣の2"のカードをパクノダの目の前に掲げた。
その瞬間、彼女の周りを風の渦がゴウゴウとうなりをあげはじめる。
一瞬で生まれた竜巻は、彼女の力をもってしても破る事は出来なかった。
ゴウゴウとうなる風の渦を少女はその黒い瞳で睨みつけながら、その小さな口を極限にまで開く。

「お姉ちゃん!! ほんとのこといって!! じゃないと2時間そのまんまなんだから!!」

いつも「はぁい」とイイコのお返事をするその口で、少女は恐ろしいことを言ってのけた。

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【必然なる運命―ノルンズカード―】
小アルカナVer
カードを引き、数字が大きいほどそのカードの属性物(棒=火、聖杯=水、剣=風、金貨=地)を長く操ることが出来る。
※カードを選ぶ場合は分刻み。裏側を向けて引いた場合は時間刻み。
※大アルカナと一緒に使うことは不可。