―――・・・まずいな・・・""という固体意識が生まれ始めてる・・・。


―――・・・でもリライ、ヘイムダルさまは・・・。


―――・・・何もおっしゃってこられないから、目を瞑れって?


―――・・・だって


―――・・・あの時、僕もお前も何もしなかった・・・いや、出来なかった。の固体意識が邪魔して僕らの念が出せなかった。


―――・・・。


―――・・・コレがどういうことか判るかリロウ。"危うい"んだよ。この先ちゃんと過去を改ざんできるのか怪しくなってきた。


―――・・・でも、リライ、俺・・・


―――・・・この"器"は改ざんが終わった瞬間に滅びるようヘイムダルさまが設定されている。余計な情けは無用だぞ、リロウ。


―――・・・・・・・・・うん・・・。
























『くじら島ーくじら島ー、次の停港はドーレ港ー』

少女はマストの上に腰をかけながら、その真っ黒な瞳で海の向こうをじっと見つめていた。
何故そんな不安定なところにいるのかと言えば、客室や甲板には既に強面の男たちでいっぱいであり、居心地が悪かったからなのだが・・・――別にその男たちが怖かったというわけではなく、向けられる好奇な目に耐えられなかったのだ。
ざっと見た感じでは、この男たちの中の誰もが蜘蛛の団員より遥かに格下である。
その不躾な好奇の眼差しも、おそらくは戦闘面においても、蜘蛛・・・というよりは少女よりも格下であった。

「元気でねー!!」

少年と思しき声に少女はふと、視線を甲板へと下ろす。
黒い髪をつんつんに立たせた少年が元気よく女性に――母親であろうか――手を振っていた。

「絶対立派なハンターになって戻ってくるからー!!」

ぶんぶんと勢い良く手を振る少年は離れ行く"くじら島"をじっと見つめてから甲板を後にする。
少女はふっと笑って、視線を仄暗い海の向こうへ戻した。
―――・・・そう、少年の判断は正しい。これから、嵐が来るのだから。



















ウミヅルたちの警戒音を聞きながら、少女は半日前から定位置のマストの上でそのずぶ濡れの体を照り返す太陽に当てる。
先ほどこの姿で船室へタオルを借りに行ったら、船員たちに眼を見開かれ船長には「こりゃぁおったまげた」と笑われてしまった。
少女は腰の中ほどまで伸びた緑を帯びた黒い髪を適当に拭いて、ホルスターの中身を確認する。
さすがというかなんと言うか、あの嵐を受けても尚、タロットカードには水滴ひとつ付いていなかった。


ふと、船の上が騒々しいことに気づき少女は甲板を見やる。
その目線の先に下船する強面の男たちを見た瞬間に、彼女は思わずため息をついてしまった。
少女はそのままストンと甲板に降り立って、がら空きになったであろう船内へと足を向けたのである。

「結局客で残ったのはこの4人か」
「・・・4人? おい、3人しかいねぇぞ」

スーツの男の言葉に船長はニッとわらった後「4人だ」と力強く言った。
訝しげな顔をするスーツの男と金髪の青年、黒髪の少年をよそに、船長は後ろのドアに向かって「やっと降りてきやがったか」と声をかける。

「だって客室満員だし、甲板にも男の人いっぱいだったんだもん」

―――・・・現れたのは、黒くつややかな髪を持つ10歳前後と思しき少女だった。
眼を見開いた2人の青年と少年である。

「そりゃぁ、ハンター試験を受けに来る奴らだからな。荒くれモンが多いのは必然さ」

船長はクツクツと喉を震わせた後「お前もそっちにならびな」と先に並んでいた少年たち3人のほうを顎でしゃくった。
「はぁい」とイイコのお返事をして、少女はなにやら幽霊でも見た顔になっている3人に倣う。

「さて、そろったな。まずお前らの名を聞こう」
「俺はレオリオというものだ」
「俺はゴン!」
「私の名はクラピカ」
「あたしはっていいます」
「ふむ」

ニィッと口の端だけで笑った船長は「お前ら 何故ハンターになりたいんだ?」と腰に手を当てた。
その言葉にスーツの男が訳もなくいきり立つのを横目で見ながら、少女は客室のゆれが大きくなり始めたことを感じ耳を澄ます。
ずっと向こうにゴォオという風の渦巻く音を聞いて、嵐が近いことを知った。

「4年前、私の同胞を皆殺しにした盗賊グループ、幻影旅団を捕まえるためハンターを志望している」

その言葉に、少女は真っ黒な瞳をクラピカと名乗った青年に向ける。
彼の茶色い瞳の奥で、その冷たい炎をゆらりと燃えるのを確認して、少女はフッと目をそらした。

4年前―――そう、其れは少女が始めて一人でお留守番を任された日。
まだ8番の男も健在だったが4番の・・・―――の代わりが入っていなかった年。
今回の仕事は蜘蛛総出でいくとクロロが宣言し、パクノダがはどうするのかと申し出て、連れて行くの連れて行かないの
だのと半日ほど口論した挙句、其れを見かねた自身が「一人でお留守番する」といった日でもある。
まだ1歳ちょっとだった少女ではあるが、見た目は既に3歳ほど―― 一応中身も同程度だったように思われる――ということも
あり、クロロは一抹の不安を覚えながらも(は「本人が大丈夫って言ってるんだが大丈夫よ。その代わりお土産はたっぷり
かってあげましょ」などと至極暢気な事を言っていた)仕事に出かけたのであった。

「金さ!金さえあれば何でも手に入るからな!!」

そう、何かあてつけのように叫ぶスーツの男を少女はまたも真っ黒な瞳で見やって、ひとつうなづいた。
曰く、まったくそのとおりだと。
世の中は簡単な言葉で表すのなら"無常"である。
少女の生まれ故郷――流星街はその象徴といっても過言ではない。
その少女に気づかないクラピカは「品性は金では買えないよ、レオリオ」と冷たく言い放った。
その言葉に静かな怒りに身を包ませたレオリオが、クラピカをつれて甲板へと足を向ける。

「オレの試験を受けねー気か コラ!!」

船長は叫ぶが、彼らは聴く耳を持たなかった。

「放っておこうよ」
「な・・・」

残った少年のドライなものいいに、船長は驚いて振り返った。
おそらく、この少年ならば止めに行くと踏んでいたのであろう。
だがしかし少年曰く"ミトおばさん"の言葉で船長は黙ってしまった。

「で、はどうしてなりたいの?」
「あ・・・えーと」

少女は「うーん」と首を捻らせてから眉間にしわを寄せて口を開く。

「・・・なんとなく?」

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