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「・・・・アルバ=アルビカーレ?」
薄暗く、廃材の詰まれた部屋。
埃とカビの入り混じったにおいのするそこで、彼は興味深げにその文字をなぞった。
「まさか、彼女・・・ですか」
彼の脳裏に、あの赤く濡れた美しい瞳とまるでそれにあつらえた様に白い髪がよぎる。
エメラルドの液体に漬かり何本ものコードで絡めとられていた幼い彼女はしかし、決して自分には屈さなかった。
体はもちろんのこと、そう・・・心まで。
「クフフ・・・こんなところで、出会えるなんて」
彼は見ていた大振りの本を丁寧に閉じて、その本の持ち主である少年に返す。
無言で受け取った少年の瞳はしかし、おおよそ"生きている"とは言いがたい色をしていた。
それにまた「クフフ」と静かに笑った彼は、ゆっくりとまぶたを下ろす。
「陳腐な言葉ですが・・・コレは、運命ですね」
彼は静かにまぶたを上げ、高らかに笑った。
赤と青の狂気が、薄暗い部屋の中に光る・・・―――。
「・・・恭弥」
『・・・今度は、誰だった?』
コール3回で出た彼の声は、硬い。
そういう私の声も緊迫を含み、暗かった。
「3年の笹川了平」
目の前の彼はジャージ姿。
本来なら灰色なのだろうそれは、ところどころどす黒く染まっていた。
「息はあるけど・・・虫の息。見たところ骨折は数箇所・・・それから」
彼の、薄く明けられた口。
唇が切れて血まみれのそこには、歯がなかった。
「6本抜かれてる」
『6本、ね』
「・・・恭弥、私いったん彼と一緒に救急車に乗って病院にいく」
だいぶ並盛の外れまで来てしまったし、一度戻って草壁と今後についての対策を練りたい。
何よりも。
「胸騒ぎがするんだ・・・」
『・・・うん』
彼の声は、始終堅かった。
そもそもの始まりは、風紀委員が喧嘩を売られた挙句ボコボコニやられて見せしめとばかりに歯を抜かれたことからだ。
きれいに24本すべてを抜かれた彼はまともに喋ることもかなわず、現在入院中。
その次も風紀委員。今度は23本。その次も風紀委員。そして22本。その次も、さらにその次も風紀委員。そして歯はまるで何かをカウントダウンするように、数字が減っている。
ここまでなら風紀委員に対する怨恨である可能性を真っ先に疑うが・・・自体は昨晩から一変した。
風紀委員ではない並盛中の生徒が無差別に襲われ始め、すでに重傷者の数だけで両手では足りない。
救急車の中で応急処置を受けるこの3年の笹川了平も、風紀委員とは関係のない人物だった。
「・・・ぐっ」
私はその声にハッとして、笹川を見やった。
苦しそうに眉間にしわを寄せたところを見ると、意識を戻し体の痛みに苦しんでいるらしい。
「意識が!!」
「酸素マスク!!早く!!」
「う・・・こ・・・よ、ちゅ」
「まって!何か言ってる!!」
右手で救急隊員を制して(コレだから風紀委員の腕章は便利だ)彼の口元に耳を寄せた。
「・・・こく、よう、だいい、ち」
ギリッと下唇をかむ。
―――・・・敵を、見つけた。
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