「・・・これのどこが、風邪なの」

検査の結果、立派に肺炎でした。



















きっかけは今朝。
絶対に5時におきる恭弥がおきなかった。
珍しいなとは思ったけれど、寝坊なんてのは人間必ずしも1回はあることで(しかもこのところ立て続けにいろいろと面倒な書類が回ってきて、てんてこ舞もいいところだったし)放っておいても害はない。
一人で納得してベッドをおりたのが5時15分ごろ。
5時半になってもおきない恭弥に、さすがに違和感を覚えて朝食のしたくもそこそこに寝室にもどり、恭弥の顔をのぞきこんで、びっくりした。
ものすごい脂汗なのに、寒いのか体は小刻みに震えている。

「きょっ・・・っ!!」

ここで下手に起こしたらもしかして負担になるかもしれない、と叫びそうになった彼の名前を、とっさに下唇をかむことで押さえ込んで、とにかく病院へ運ばなくては、と恭弥に買ってもらった携帯で救急車を呼んだ。

「あのっすいません、同居している人がものすごい脂汗で、熱も・・・」
「・・・?」

ずいぶんとかすれた弱弱しい声に振り返れば、恭弥の真っ黒な瞳と目が合った。
眉間にしわを寄せて苦しそうにする姿は、尋常ではない。

「っ!気がついた?起きなくていいよ、つらいでしょ。・・・あ、すいません。はい、そうです、至急救急車」
「救急、しゃ、なんて・・・いい・・・風邪、だ、し」

言いながら彼は上体を起こそうと片手をついたが、しかし力が入らないのかうまく起こせないようだった。

「だめ!寝てて!寝ててってら!! すいませんすぐ来てください!!場所は・・・―――」

そして冒頭に戻るのである。






















「・・・ん」

薄く目を開けると、淡いピンクのカーテンが見えた。
少しだけ窓が開いているらしくひらひらとゆれるそれをボウッと見ていると、ガララ・・・と聞きなれない引き戸の音がして、「あ」と聞きなれた彼女の声。


「よかった、体の調子はどう?」
「ん、だいぶいいみたい」

のそりと起き上がれば彼女は苦笑しながら「まだ起きないほうがいいよ」と駆け寄ってきた。
ただあまりあわてた雰囲気でないことから察するに、本当にもうだいぶ病状は落ち着いているのだろう。
彼女はガタガタと備え付けの丸椅子をベッドの横に移動させて、僕が前にあげた黒いキャスケットをとって、大事そうにひざの上に乗せた。露になった白い髪が、薄いピンクのカーテンとともに風になびく。

「さっき先生の検診があってね。病状は回復してたぶんもう平気だろうけど、ほら、最近忙しかったでしょ、だから大事をとってもうちょっと入院しましょうってことになったの」
「ふぅん」

気のない返事に彼女は苦笑して「あ、そうだ」となにやら持ってきていた紙袋をガサガサと揺らした。
それと同時にゆれる彼女の白い髪にちょっと触れたいな、と思って伸ばした手が伸びきる前に、彼女は顔を上げる。
その赤い目が不思議そうに僕の手を見たけど、すぐに笑って「ハイ」とその手に一冊の本を置いた。
ちょっと残念におもったけれど、まあいいか。

「暇かなぁとおもって、買ってきた」
が?」
「うん・・・あ、趣味わかんなかったから適当に見繕っただけだよ」
「・・・」

気がついてるのかな、彼女は。
これが君から僕にくれた初めてのプレゼントだってことに。(まあ、前は僕が用意しなくていいって行ったんだけど)
きっと気づいてないんだろうな、と思いながら少し笑って「ありがとう」とつぶやいた。



















本を渡してから郊外の見回りをして、その後にもう一度恭弥の病室によったら、なんだか恭弥がうれしそうに笑っていたので何かあったの?と聞いてみたら「面白い草食動物で暇つぶしができた」なんてのたまってくれた。


・・・本、読めよ。


<日常編>完




あれ、桜クラ病とか夏休みとかは?と、思いの方がほとんどかと思います・・・が。
正直に言いますと思いつかなかったのです(ほかのサイト様とかぶりそうだったというのが本音)
死体とか入院沙汰とかは比較的少ないような気がしないでもないんですが、桜と夏休みは多すぎてなんていうか・・・こう。オリジナリティがあまりにも出せない気がして断念しました・・・。
もし思いつくようであれば仕上がり次第追加しますが、とりあえずこれで黒曜編に突入します。