メールで「敵、黒曜第一、笹川証言」と短い文面を恭弥に送り、運ばれる笹川を見送ってから並盛中央病院の正面玄関をくぐった。
重態患者の病状と人数を把握をするために、草壁は病院に駐屯している。
というか、次々に患者が運び込まれているため駐屯せざるを得ないといったほうが正しい。

「・・・問題は」

この並盛中央病院はいわゆる総合病院であり、規模はそれなりに大きい。
そして医療機器も結構最新で精密なものを導入しているため、風紀委員は携帯電話の電源を切ることを義務付けられている。ということは、徒歩で草壁を見つけなければならない。
館内放送をつかってもいいだろうが、今は極小とはいえ緊急事態に当たる。
無用な混乱は避けるべきだ。

「さて・・・どうしたものか」

ふっとため息をつくと、並盛生でごった返しているロビーが一瞬だけザワリと揺らめいて、ゆっくりとした漣に変わる。
振り向けば、でかい図体にリーゼント頭の彼がちょうどこちらに向かって歩いてくるところだった。
ナイスタイミング。
草壁の隣にいた並盛中との定期連絡係であろう風紀委員は私をチラッと見てからペコリと頭を下げて、病棟へと向かっていった。

さん、お疲れ様です」
「草壁・・・ちょうど良かった、あのね」

その瞬間、ロビーがまたザワリとゆれる。
しかも先ほどの比ではない。
え、なんでよ、と思って耳を澄ましてみれば「え、え、誰あれ」だの「草壁さんを呼び捨て!?」だの「むしろ草壁さんが敬い姿勢!?」だのと・・・ああ、そういえば私並中生ばりに学校入り浸ってるけど、実は在校生じゃないし。
なぜか風紀委員扱いだけど、在校生じゃないし。しかも副委員長のはずの草壁が低姿勢だし。


そりゃあ、目立つわ。


「・・・場所、移動しようか」
「・・・はい」


















「では、委員長は黒曜第一中に?」
「・・・おそらく」

そうですか・・・と、草壁は何事か一瞬考えてから「では」と何かを言いかけてハッと顔を引き締め後ろに飛びのいた。
その瞬間鋭い爪のような何かが私と草壁の間を切り裂く。

「っ!」
「オッシー!もーちょっとらったのに!」

ヒャハハ、と嫌に癇に障る笑い声とともに、その少年は現れた。
前髪を無造作にピンセットで止めた少年は嫌に好戦的な眼差しで、私と草壁をねめつける。

「あー、どっちがクサカベ?」
「・・・俺だ」

ズイッと一歩前に出た草壁も、負けず劣らず挑発的な視線で幾分彼からすれば背の低い少年を見下げた。
ニンマリと笑った少年は「じゃー、オマエが俺のエモノ」とつぶやいてそれから・・・私を、見た。
その赤と青の瞳を見た瞬間、嫌な悪寒が背中を伝う。

・アルバ=アルビカーレ」






だれだ、それは。






私はそんな名前じゃない。
右腕に鈍く光る、銀色の腕輪をぎゅっと抑えた。

「君は、僕のエモノです・・・クフフ」

少年の伸ばされた手を振り払った瞬間に、視界がホワイトアウトして、最後に「さん!!」と草壁のあせった声を聞いた気がした。




















「クフフ・・・いらっしゃい。・アルバ=アルビカーレ」

360度真っ白な空間で、男の声だけが反響している。
聞きなれないその声はしかし、どこかで聞き覚えがあった。

「・・・誰だ」

静かに問いかければ、声の主は「クフフ」と独特の笑みをたたえてゆっくりと姿を現した。
年の位はどうやらおなじ。
緑色の学ランをきた、青と赤・・・―――"青と赤、二つの狂気がこちらを向いている"。

ギシリ、と記憶のふたが開く音がした。

「く・・・」
「・・・おやおや、クフフ」

オッドアイの彼は面白そうに私を眺めてから「記憶にふたをしたんですね」としたり顔で、ムカツク。
ギッと睨み返したが彼は「クフフ」と笑うだけでひるもうともしない。

「まあ無理もありません。あれだけ残酷なことが起これば、防衛本能が働いて当然です」
「・・・おまえ、何かしっているのか」
「おや、興味がありますか?あなたの過去に」
「・・・っそんなものは、ない!!【聖斧―ミョルニール―】!!」

出現させた巨大な斧をぐっと握りこんで、間をおかず横に凪ぐ。
だがしかし、衝撃波で吹っ飛ぶはずだった彼は平穏無事でそこにたっていた。
驚いた私と同じぐらいに彼は目を見開き「クフフ」と笑った後「記憶を失っても、その斧は健在なのですね」と口の中で忌々しそうにつぶやいて、今度は彼が右手を横に凪いだ。
その瞬間、真っ白であったはずの空間が一変した。
並ぶ大小さまざまな試験管に、薄く光るエメラルド色の液体。

「ほら、この場所、覚えていませんか」
「・・・」

幾重にも伸ばされたコード。
つながるのはさまざまな機材。

「・・・こ、こは」

ああ、そうだ、ここは研究所。












―――・・・エストラーネオファミリーの第5研究所。













「・・・っ」

出現させていた斧が、さらさらと砂のようになって存在を消していく。

「僕とあなたは、ここで出会ったんですよ」
「・・・おまえ・・・」

そう、私はこの男を知っている。
否・・・この男がいるからこそ、私が作られた。
彼はその狂気の瞳を細めて笑う。この男の名前は六道骸。

私と"同じ存在"だ。