雪が、しんしんと降っていた。
吐く息は白くて、手の感覚はもうない。






―――・・・ばっ・・・ばけもの!!







叫ばれた言葉が耳から離れなくて、頭を振った。
それでも離れなくて、耳を覆う。
頭の中にリフレインするそのフレーズは、でも、わかっていたことで、涙は不思議と出なかった。
ただ、本当にばけものかもしれない、とか。もうあの家には帰れないかもしれない、とか。
彼はこのことを聞いたら(というかたぶんもう、情報は彼に行ってるんじゃないだろうか。あの場を離れる際に入り口あたりで草壁じゃない風紀委員と鉢合わせたし)どう思うんだろう、とか。

気がついてみれば彼の・・・―――雲雀恭弥のことばかり考えていて。

「・・・何してるの」

その声が肩越しに聞こえたとき思わず「うそだ」と口にしてしまった。
聞こえたはずなのに、彼はその言葉を無視して私のかじかんで感覚のない右手を握る。
それでも、私は彼の顔を振り返れない。

「帰るよ」
「・・・あたし、ねぇ、恭弥」
「・・・」
「わかってたんだよ"普通の人"じゃないんだって」

その言葉に彼は肩越しに「うん」と返してくれた。
握られた右手がだんだんと熱を帯びて、感覚が戻ってくる。
後ろから包み込むように回された彼の左腕に、左手を重ねた。

「だからね、悲しくないんだ、だから泣かないよ」
「・・・うん」
「けど、ねぇ、どうしよう、恭弥、あたし」
「・・・」
「あたしは」

目頭が痛いほどに熱くなって、まぶたを下ろす。
瞬間伝った熱い雫が、左手をぬらした。

「あた、しはっ・・・ばけも」
は、ばけものじゃないよ」
「・・・」
「ちがうよ」

即座の否定にさえぎられた終わりのほうの言葉は、飲み込んだ。
別に暖かい音色の言葉ではなかった。ただの、否定。
けれどそれは、確実に私が望んだもの。
だから、続くはずだった「化け物かもしれない。人間じゃないかもしれない。だから、追われているのかもしれない」という言葉を飲み込んだ。

は、僕の兎だから」

小さくつぶやかれた言葉に「なにそれ」と泣きながら笑った。





















    *    *    *


















「はい、これ」
「え」

渡されたのは大き目の、黒いキャスケット帽だった。
少しつばの大きいそれはふんわりと膨らんでいて頭がすっぽり隠れてしまいそう。
・・・というか、たぶん隠れる。顔半分くらいまで隠れる。
まあそれはいい。
別に帽子は嫌いじゃないし。何より目立ちすぎるこの白い髪(しかも色を変えようとする度に恭弥にダメといわれる。)を隠すのにはちょうどいいとおもう・・・というか、それが狙いだろうか。最近私めちゃくちゃ気にしてるし。
問題は。

「なんで・・・」

今日はなんかある日だったかな、と少しばっかり考えをめぐらしてから気がついた。
そうか、今日は・・・―――。
パッと顔を上げると、少し目を細めて笑っている黒い瞳とかち合う。


そう、今日は、あの路地で拾ってもらった日から、ちょうど一年目だ。


案外まめな彼にちょっとびっくりして、もうそんなにたつのかぁ、と感慨深く微笑んだ。

「ありがと・・・っていうかっここはあたしが何かあげるべきなんじゃ・・・」

焦って言えば、彼は呆れたように目を一瞬見開いてから、ふっと意地悪な笑みを浮かべる。
・・・いやな予感しかしない。

のお小遣いをだしてるのは?」
「・・・恭弥です・・・」
「僕の金で僕へのプレゼントを買うの?」
「・・・うう・・・じゃあ」

どうしよう、と考える。
料理を作ろうかともおもったが、食費は恭弥もちだし、第一料理は恭弥のほうがうまい。悔しいことに。
じゃあ肩たたきとか・・・は、なんか違う気がするし。
どうしたものか・・・。

「あー・・・恭弥からのお願い、聞くよ」

きっと、そういうプレゼントを恭弥は一番望みそうだから。

「あっ!でも、あたしができなさそうな奴とかだめね!!そんでもってひとつだけね!」
「・・・ルールありすぎ」

ムッと顔をしかめる恭弥に「だって変なのはしたくないし」と、自分で言い出したことなのにもかかわらず安全圏をつくる私は、卑怯な奴だろうか。
いや、保守的であるからこそ、守れるものだってあるはずだ。

「・・・じゃあ、僕からひとつにお願い」
「うん」

どんとこい!と意気込んだら、ちょっと笑われた。くそう。








「僕の傍にいて」







驚いて、瞠目した。
絡んだ視線の先の黒い瞳にはしかし、冗談の色はない。

「この先ずっと、何があっても。僕の傍にいて」
「・・・えっと」

それは、コクハクですか。
と聞こうとして開いた口は「返事は?」という彼の言葉に「はい」と反射的に答えていて、満足気な彼の笑顔とともになんだか熱くなっていっているようなする頬に手を当てるのが、なんだかもう精一杯だった。


<出会い編>完




出会い編終了です。
いろいろ謎を残しましたが、本人たちはどうやら両思いのようです(あはは)
ヒバリさんにいたってはなんていうか、一目ぼれだしね。本人自覚ないけど!
次からは原作に突入します。
が、ここで注意をひとつ。
ちょぼちょぼとは原作を変えていきますが、基本的な流れはまったく一緒です。
ですので、まったく同じ流れになる部分は小説として起こさないことにしました(ので、いきなり場面がぶっ飛んだりするかもしれません・・・)