「・・・」

気がつくと360度真っ白な空間に立っていた。
軽くため息をはいて「骸」とこの空間の主に声をかける。

「真っ白な空間なんて味気ないわ。もっと落ち着く場所にしてよ」
「・・・クフフ。それは申し訳ありませんでした」

響いた声とともにパチンと音がして落ち着いた赤茶色のレンガの石畳に、黒くシックなデザインの街灯とキラキラと輝く街路樹。清楚な町並みの中にオープンテラスが現れた。
ふむ、なかなかいい場所じゃないの。
この前の第5研究所よりだいぶ落ち着くわ。
足を動かして用意されたテラスの席に座ると、どこからともなく紅茶が現れた。
もう何でもありだなこの空間。
そしていつの間にか、向かいの椅子にここの主・骸が「クフフ」と笑いながらティーカップを傾けていた。

「それで、何の用」
「ツレないですね、暇つぶしのティータイムに付き合ってはいただけないのですか?」
「生憎とそんな暇はないし」
「クフフ、残念」

ちっとも残念そうではない彼にため息をついて、頬杖をつく。・・・と、骸がなにやらこちらをじっと見てくるので「何」と胡乱な視線を投げかければ「ソレは」と指輪をさされた。

「ボンゴレリングですね」
「・・・」
「僕も、もらってしまいました」
「・・・はぁ!?」

「ほら」と見せられた左手にはしっかりとリングが嵌っている。
何考えてんのあの門外顧問は!!
何でこんなやつを守護者にってか、敵対してたでしょう!?いやむしろ、今も敵対してるでしょう!?
その思考が伝わったのか(そういえばここは彼の空間だった。心の声が見えてもなんら不思議はない)彼は苦笑して「取引をしまして」と呟いた。

「いささか、不服ではありますが・・・彼らのためです」
「・・・そっか」

大方、あの少年2人のことだろう。
エストラーネオファミリーを壊滅に追い込み、第5研究所に攻め込んできたときもあの2人を連れていた。

「大切なんだね・・・あの子たちが」
「大切?いいえ、違いますよ。彼らは僕の駒ですからね」

笑って否定するのは、自分のために彼らへの報復がないように。
彼らはずっと自分に手のひらで踊らされているだけの、ただの駒なんだと相手に取らせるための顔。
私はなんだか少しだけ、うれしくなった気がして「そう」と笑いながら呟いた。

「それで、あんた本当に暇つぶしの世間話をするためだけに、私をわざわざここに連れてきたの?」
「まさか」

彼はおどけながら「ちょっとした言葉遊びですよ」と不遜な顔を見せる。
それに少しだけ息を吐き出して(顔をしかめなかったのは、どういうわけか彼との会話が楽しいと感じたからだ)用件を、と視線を投げかけた。

「ジェッソが、なにやら水面下で動いているようですよ」
「ジェッソ・・・? 聞いたことないけど・・・組織名?それとも人物?」

私はものすごく不思議そうな間抜け面をしていたに違いないのだが、骸は軽く目を見開いて「冗談でしょう?」なんて呟く。

「思い出していないんですか?・・・いや、そうか・・・そうですね。あなたは"彼ら"と直接会ったことはないんですね」
「・・・だから、何の話よ・・・」

いぶかしげに目を細めた私に、彼はちょっと困ったように笑ってから「ジェッソは」と口を開いた。

「あなたの"人体実験"に口を出し、さらにあなたの逃亡後もずっと追いかけ追い回していた"マフィア"ですよ」























 

 

 

 

雷戦後、俺は即効でイタリア行きのチケットを取った。
いやな胸騒ぎはあの後からずっとおさまらねぇし、何より気がかりなことがひとつ。
搭乗の番を若干イライラした気持ちで待っていた俺は、胸ポケットの携帯がブルブル震えたことにハッとしてすばやく携帯を取り出した。ディスプレイに移った文字は、"C.D"。それに若干瞠目して通話ボタンを押す。

「・・・もしもし」
『こんにちは』
「ああ、うん」
『突然お電話してすいません。今お時間は』
「・・・搭乗の順番待ちだ」
『そうですか、では手短に』

聞こえてきた"彼女"の声は落ち着いた中にもどこか焦りを見え隠れさせていて、俺は狼狽した。
話したのもつい最近が初めてで"彼女"のことなど何一つわかっていない俺ではあるがしかし、彼女が用もなしにボンゴレ門外顧問である俺に電話をしてくることはありえない。
しかもきっとその用はただごとではないのだろう。そして少なくとも"今回のこと"に関係している。
そんな予感が俺の心臓を掠めた。
"彼女"は少しだけ(まるで自分を落ち着かせるように)息をすって「今すぐに」と言葉をつむぐ。

『"ジェッソ"と名乗るファミリーを調べてください』
「それは・・・」
『理由はご自分でお調べになってください。調べればわかりますので』

それが門外顧問の仕事だろう、と"彼女"は言外にいっていた。
眉間にしわがよってしまったのはきっと、あの青年・・・XANXUSの言葉がよみがえったからかも知れない。

 

 

 

 

 

 


















、風邪引くよ」
「・・・きょー・・・や?」

その声に重いまぶたを押し上げて、瞬間入り込んできた日の光に顔をしかめた。
ガタンゴトンとゆれる電車は人もまばらで、足早に過ぎ去る窓の外はもうすでに夕暮れ。
どのぐらい寝てたのかな。
・・・ってか、何で寝てるんだっけ。

「もうすぐ並盛だから、ちゃんと起きて」
「ん・・・」

大きなあくびをしながら、ああ、そうか、と寝ていた理由に思い至る。
私はXANXUSと会い見えた翌朝、跳ね馬に頼み込んで恭弥の修行場所を移してもらった。
なんたって今回のガチンコ勝負の会場は並盛中。
どういう勝負になるかはしらないけど、何をするにしてもあの連中をみるからに器物破損は免れない。
学校を愛しちゃってる恭弥がそれを見たら勝負とか問答無用で暴れまわるに違いないし・・・いやまあ、暴れるのは別に問題ないんだけど(大体勝負なんて知ったこっちゃないし私)問題は、器物破損をした場合、責任がどっちに行くかって事で。
要は、書類が私に来るか、ボンゴレ側にいくかってことなんだよね。
そんなわけで恭弥を学校から遠ざけるべく、跳ね馬に協力してもらったってわけだ(理由には跳ね馬も同意したらしく、快く引き受けてくれた。何よりだ)言いだしっぺの私が行かないわけにもいかなし、町は心配だったけど何かあったらまたリボーンとか門外顧問に押し付ければいいかとおもって一緒に修行して回り、一段落したから帰ろうってことになって電車に乗って、寝ちゃった、と。

・・・つかれてんのかなぁ、私。

ごしごしと目をこすったら「擦らない」と恭弥に軽く腕を引っ張られた。むう。

「僕は駅からまっすぐ学校に向かうつもりだけど、は?」
「・・・うーん、じゃあ、家に戻っとくよ」

あったかいご飯食べたいでしょう?と首を傾げたら、恭弥は薄く笑ってから「わかった」とうなづいた。

 

 

 







 

 

その日の夜。
たぶんあれから勝負を見てたんだろう、恭弥の帰りはほどほどに遅かった。
けれど暴れる恭弥を想像してちょっとゾッとしたから、学校にも見に行けず彼の帰りを待ってたわけなんだけど。
帰ってきた彼は何事もないような(というか、ちょっと嬉しそうな)顔。どうかしたの?とたずねたらその形のよい唇をツィと上に押し上げて「赤ん坊が言ったんだ」と口にした。

「六道骸、だっけ。あいつとうまくすれば戦えるかもしれない」

・・・。
おい、何を言ったアルコバレーノ。