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「六道骸が・・・骸が来る!!」
私は沢田の悲鳴のような叫びを聞きながら、じっと霧に包まれ行く彼女――クローム髑髏を体育館の2階通路から見つめていた。・・・まったく、馬鹿なことを。
恭弥の言葉が気になって霧戦に出向いてみればこれだ。
彼女をどういった経路で見つけてきたのかは知らないが、まさか完全に己の姿を現すことのできる憑依体を持ってくるなんて。
「六道骸・・・どこかで聞いた名だと思ったが、思い出したよ」
ということは、骸はこの場には来ない・・・否、これない状況下にあるということ。
「復讐者の牢獄で脱走を試みたものがいた。そいつの名が六道骸」
藍色のおしゃぶりのアルコバレーノの言葉を聞きながら、私は静かにため息をついた。
なるほど、最近よく私をあの真っ白な空間(行くたびにカフェテラスだとかリゾート系の海辺だとか真っ青な草原に色を変えるおかしな場所だが、基本的には360度真っ白な空間)に誘うのは、本当に暇だったからという認識にしなければいけないのかもしれない。
もし今日また呼び出されるようなことがあるならば、思いっきり「やーいやーい、脱走したくせに捕まってやんの」と罵って、鼻で笑ってやろう。
「勝負はお互いに3勝ずつとなりましたので、引き続き争奪戦を行います」
チェルベッロの発言に少しだけホッとした俺・・・って、なんでホッとすんの!?別にいらないじゃん指輪なんか!!そうだよ別に10代目になんかなりたくないし、それにこれ以上・・・これ以上怪我する友達なんか、見たくないのに。
キュッと唇をかみ締めると隣の獄寺くんが「10代目?」と気使わしげな声をかけてきた。
それに笑いながら「なんでもないよ」と答えてチェルベッロに視線を戻す。
・・・そう、別に俺はボンゴレ10代目になりたいわけでも、指輪がほしいわけでもない。
ただ、友達が傷ついてるのをみていたくない。それだけだ。
「ですが、明日は一度争奪戦本線より離れ"雪の守護者"の試練を行いたいと思います」
「えっ・・・」
「・・・ここで、か」
リボーンのつぶやきにどういうことだよ、と突っ込もうかとまよった。
だけど決まってしまっている事柄のようだし、それは家に帰ってからでも聞ける(もしかしたら教えてくれないかもしれないけど)ので、一応口を慎む。
・・・俺も成長したよな。いろんな意味で。
「・・・ちょっと、いい?」
その声に俺(以下、その場にいたヴァリアー・チェルベッロを含む全員)はバッと声のしたほうを振り仰いだ。
視線の先には体育館の2階通路に先日の黒いキャスケットの風紀委員。
俺は驚いて口を開いた。
「いつのまに・・・」
「何いってんだ、最初からいたぞ」
「えっ!!」
リボーンの言葉にもさらにびっくりして思わずリボーンを見つめる。
・・・って、おしゃぶり、光ってない?
さっきマーモンのおしゃぶりの封印(だかどうだかはしらないけど)が解けたときよりは幾分か淡い光ではあるけど。
チラリとコロネロのおしゃぶりもみたけど、やっぱり淡く光ってる。
それに気がついたのかコロネロは少しだけ目を丸くして、リボーンと風紀委員を交互に見やり、最終的にリボーンをじっと見つめた。
「どういうことだ、コラ」
「・・・その話は後だ」
「・・・」
コロネロは軽く舌打ちして(怖ぇ!!)視線を風紀委員にやる。
俺もつられて黒いキャスケットの風紀委員を見つめなおした。
「守護者対決は後1回、雲戦で終わりのはず。なぜここへ来て雪の試練を?」
「・・・厳正なる協議の結果です」
「・・・その"厳正なる協議"には"誰"が参加している?」
その凍てつくような、底冷えする声に俺は背筋を凍らせた。
それは周りのみんなも同じだったのか、なぜか臨戦態勢をとって(獄寺くんなんか殺気をビシビシとばしてるし。お願いだからやめて!!)黒いキャスケットの風紀委員を見つめている。
風紀委員の表情は黒いキャスケットのせいで表情は読み取れないのに、その感情だけは確実にわかった。
これは、ドロドロとした、嫌悪だ。
「・・・っその、質問には・・・お答えで、きまっせん」
その感情の波にやられたのか、つっかえながら答えるチェルベッロに風紀委員は軽く舌打ちして「そうか」とつぶやきその
黒いキャスケットの鍔をもってぎゅっと引き下げる。
「場所は、並盛中?」
「・・・はい」
「・・・了解した」
そういって黒いキャスケットの風紀委員はくるりと背を向けて(その背にやっぱり獄寺くんが「テメー!10代目にまた挨拶なしかよ!!ざけんなあ!!」とダイナマイトを取り出した。だから!!なんですぐにそう!!好戦的なんだよ!!)その場から姿を消した。
ぐるぐると、内側でくすぶるどす黒い何かに辟易しながら家路に着いた。
このリング争奪戦が始まってから、薄く薄く感じていた違和感。
わざわざ封印を解いたリングを渡した私のことを知らないという"9代目直属の"チェルベッロ機関。
"厳正なる協議"に参加している人物はもちろん、その人数も不明。あきらかに沢田綱吉側が不利であり公平ではない状況。
そして、同時期に動き出したジェッソ。
―――・・・あなたの人体実験に口を出し、さらにあなたの逃亡後もずっと追いかけ追い回していた・・・
骸の言葉が脳裏を掠めて消える。
下唇をキュッとかみ締めて、指先が白くなるほどに拳を握りこんだ。
いやな予感ばかりが心臓を撫でていく。
試練では力を出さないほうがきっと懸命だ。
だけど、けれども。
今このお互いに3勝3敗という状況が、それを出来なくさせている。
「・・・やっぱり」
仕組まれているとしか考えられない。
けど、何のために?
見上げた夜空は重くどんよりと灰色の雲が覆っていて、私は眉を寄せた。
「」
「・・・ん」
ベッドの端っこでひざを丸めていた私は、恭弥に呼ばれて振り返った。
いつもの真っ黒なパジャマを着込んだ彼は、どこか不機嫌そうな顔をして、私の眉間に人差し指をあてる。
「なんて顔してるの」
「む」
ぐっと眉間のしわを押された。
痛いんですけど・・・。
「明日は、の番だっけ」
「うん、試練だってさ」
暗に戦闘じゃないと告げると、恭弥は安堵と心残りが混ざったような微妙な顔をした。
それにちょっと笑う。
戦闘好きな彼のこと、きっと私が戦ってる様が見たいんだろう。
実際、彼の前で武器を取ったのは過去1度きり(しかも対人じゃなかったし)。
・・・まあ結構そこかしこで粛清という正義にかこつけて暴れてるわけで、そのうわさが彼の耳に入ってないわけないんだけど。
「恭弥はさ、群れてるのが嫌いでしょ?」
「そうだね」
「・・・いいの?」
私は目の前にある真っ黒な瞳をじっと見つめた。
蛍光灯を映してキラキラと輝く黒い虹彩。
その奥の色が「何」と尋ねている。
「だって・・・リング、受け取るってことは」
あなたがずっと否定してきた"群れ"に、入るということなのに。
「それでも」
見返してくるその瞳の中にある色は揺るぎのない"決意"。
伸ばされた彼の両腕が、背中に回る。
シャンプーの香りが鼻腔を掠めた。
「君は僕のものだから」
だから、リングを受け取ってくれるというのか、この人は。
思わず瞼を降ろした。
降ろさなければ、泣いてしまいそうだったから。 |