揺れる、緑色の視界。
厚いガラス越しの世界は妙にゆがんでいて、そして息苦しい。
息苦しいのに絡むコードが邪魔で、身動きひとつ取れない。

―――・・・ああ。

また、夢を見ている。
過去の記憶の断片が、再生されている。
見たくもない過去は時折こうして姿を現して、私を束縛してやまない。

「・・・では彼女が」

突然の声に視線を向けるが、声の主の顔は見れない。
誰だろう。
声に聞き覚えはない。声質は少年だけど・・・骸ではない。

「ええ、そうです」

この声はわかる、エストラーネオのボスだ。
ボスが敬語を使っているということは、どこかのマフィア関係だろう。
しかもボスより確実に格上の相手。
ボスは社交辞令が苦手な人だったから、年齢序列も総無視で、財力と権力が及ばない相手にだけ下手に出ていたから間違いない。
そんなんだから骸たちの迫害もひどかったんだよ。

「彼女が"終焉の雪"ですよ」
「・・・そうですか、彼女が終焉」

少年の顔は見えない。
それは部屋が薄暗いせいなのか、それとも分厚いガラスの屈折が原因なのか。
けれども少年の声はうれしそうに笑っている。

「彼女を・・・」

意識が浮上する感覚がして、少年の声が遠くなった。

まって、まって・・・もう少し、もう少しで彼の言葉が・・・―――。

この言葉を聴かなければいけない気がするのに、なぜかその意思とは逆に、まるで聞いてはいけないというように意識が勝手に起き上がろうと浮上していく。
私は必死で意識を沈ませようとして、ぐっとこぶしを握りこんだ。









 

「世界が、終わるんですね」

 









少年の声は、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







どういうことだ、と口を開こうとしたがそれはかなわなかった。
ゴポゴポという重い空気の音が耳元を掠める。
ひどく懐かしい感覚だ。
肺が、胃が、体の中のすべてが、水に溶けたような感覚。
そう、まるでエストラーネオ第5研究所の試験管の中のような・・・―――。

―――・・・って、ちょっとまった。

意識は覚醒している状態だ。それにもかかわらずこのひどく懐かしい感覚は、なんだ?

「そろそろ・・・時間がないわ」

聞き覚えのない、おそらくは女性だろう声が聞こえた。
誰だと思ってまぶたを上げようと試みたものの、かかる水圧のせいか瞼は意に反して開かない。

誰・・・その前にこの状況はなんだ。

今日は(正確には今夜だけど)雪の守護者の試練がある日で、そして昨晩はいつものように恭弥と並んで就寝したはず。
私が起きたらきっともう恭弥はすでに朝の巡回を終わらせてて、朝食は作らないくせに朝刊とコーヒーはかならず自分で用意してて、私は「おつかれさま、どうだった?」なんてねぎらいながら朝食を作る・・・はずで。

「本当に・・・本当にごめんなさい・・・・アルバ=アルビカーレ」

 


なぜ、その名で、私を呼ぶ。

 


「私の・・・いいえ、"私たち"のせいで、多くの時間をあなたから奪ってしまった」

要領の得ない言葉の羅列に私は若干イライラしながら、鉛のように重い瞼を必死で押し上げる。
薄く薄く開いた視界に、青みがかった黒髪の凛々しい女性の姿が映った。
真っ青な、まるで済んだ青空のような瞳が印象的な彼女の胸元に私はそれを見つけて、はっと息を呑む。

―――・・・オレンジ色の、おしゃぶり。

ならばこの人は、アルコバレーノ?・・・いや、そんなはずない。
アルコバレーノは現在欠番を含めた全員が"赤ん坊"の姿をしているはずだ。
そして何よりも、そのおしゃぶりの色。
"オレンジ"は大空を指す。

大空のアルコバレーノは現在、欠番のはずだ。

「もうすぐこのアジトも、ジェッソの手が回る・・・だから、その前に」

私の赤い瞳と、彼女の青い瞳が交差する。

「あなたにすべてを託すわ・・・"終焉の雪"」

大きなゴポリという音を立てて、私の耳元を泡が掠めた。











――――――・・・恭弥は、どこ・・・?






<ヴァリアー編>完




・・・えー・・・っと。
いやなんていうか、待て次号!ってかんじですね、正直なところ。
とりあえず<夢境>の二の舞を踏むのを回避したいがための対策でもあったとはいっておきますがどこで区切ればいいのかわからなくて前回(20話)長くやりすぎたなー、とちょっと後悔しつつですね・・・アッヤメテ!石ハナゲn(ry
正直出すと思ってなかったアリア(?)さん。
ユニちゃんは出す予定だったけど、彼女は想定の範囲外デス・・・。暴走しはじめてるぞ・・・。