「あー、いい天気だねー」

誰とはなくつぶやいて、洗濯物が入ったかごをベランダに置いた。
休みの日の朝は洗濯物と決めたのはいつだったかなぁなんて思いながら、着々と洗濯物を干していく。
そういえば恭弥のパンツはボクサーパンツなわけだけど、そろそろゴムがやばそうなのがあったっけ・・・買いにいかないとだ。ついでに私の下着も買っちゃおうかな。あ、あとタオルももう2,3枚ほしい。
古いのは雑巾にしたいし、バスタオルもたしか1枚そろそろほつれて来たのがあったから足拭きマットにしちゃおう。
ああ、でもたしかこの前ミシン針折れたんだよね。じゃあ裁縫用具店にもよらないと・・・あー、そしたらバイクでデパートに乗っけてってもらったほうが楽かな。恭弥の外回りについていったら一番いいよね。

・・・・・・。

私思考がなんか主婦みたいになってないか。
おかしいなぁ、と少し苦笑してから空になったカゴを持ち上げる。

「よし、洗濯物終わ」

―――・・・緑たーなびく並盛の〜

・・・って、何でベランダに携帯あんの!?
しかもたぶんこれ恭弥のだ。・・・勝手に出るのは気が引ける。いろんな意味で。
しかたないな、と真っ黒な携帯をぽいっとかごの中に入れてベランダから室内へ入る。

「・・・恭弥ー、携帯なってるー」

すぐ脇のベッドでいまだに気持ちよさそうに丸まっていた暴君様の耳元に、それをさっと置いてみた。




















「・・・死体処理?」

朝も早よから、なんて物騒な会話でしょうか。
携帯片手に現れた、まだ真っ黒なパジャマ姿の彼はテーブルに置いといた新聞を何気なく手に取る。
電話しながら新聞なんて読んで、内容が頭に入るんだろうか。
ちなみに私は入らない。絶対。

「・・・ふぅん?」

ちょっとわけがわからない、とでも言いたそうに眉間にしわを寄せた恭弥はしかし、次の瞬間には「いいよ」と承諾の言葉を吐いた。
あ、承諾しちゃうんだ?と思いながら、私は入れたばっかりのコーヒーをすする。
もちろん恭弥にも湯気の出ているマグカップをおいたのだが、それには手をつけない。
一応マナーとして電話中は物を飲まない、食べない、というのはできるらしい。
ならば新聞も読むなとおもうのだが、触らぬ神に何とやらである。

「君に貸しを作るのも悪くない」

恭弥が貸しを作るのも悪くない、だなんて。珍しい。
もしかして午後には雨になるんだろうか。
嫌だなぁ、天気予報では降水確率10%だったのに。その10%が午後に凝縮でもしているというのか。

「うん、いいよ。そこならバイクですぐだし」

あ、バイクでいくの?
じゃあそのまま見回りにいっちゃう感じだよね・・・弱った。
あー、でも処理自体は別の風紀がやるかな。あ、でも結局状況確認は恭弥がしなくちゃだめなわけだし・・・。

「・・・何難しい顔してんの」

突然真正面からかけられた声にパッと顔を上げた。
どうやらコーヒーをすすりながらうんうん悩んでる間に電話は終わってしまったらしい。

「あ、いやぁ、恭弥これから出かけるんでしょ?」
「うん」
「実はちょっとデパートに買い物行きたかったんだよね。だから見回りついでにバイクの後ろ乗せてもらおうかと思ってたんだけど」

いったん家に戻ってくるの面倒でしょう、と苦笑すると彼はちょっと目を見開いた。

「一緒に乗りたいの?バイク」
「うん」

デパートによってもらえれば、他にいきたいところはよっていいし、待っていいし。
だから、バイクでデパートによってほしい。
そういうと、恭弥は「ふぅん?」と何か考えるそぶりをしてからもう一度「うん」とうなづいた。

「一緒においで。最初にさっきの電話の件があるけど、それも一緒にくればいい」
「・・・って、死体処理?」

「他に何があるの?」という視線に「ですよねー」と引きつった笑いしか返せないのは、致し方ないことなんだろう。




















恭弥のバイクがついた先は、普通の住宅街だった。
え、死体処理だよね?こんなとこに死体でたの?・・・ていうか、死体処理って人間の死体処理だよね?

・・・ほんっとうにこんなところに死体でたの!?

と、叫びたい衝動を押さえ込んだ私は偉いとおもう。
まあフルヘルメットかぶってたし、叫べなかったというのが若干正しいが。

「【沢田】・・・うん、ここだね」
「・・・」

この家ですか、と思いながらヘルメットを脱ぎ、トレードマークのキャスケットに真っ白な髪を全部押し込むようにかぶる。腕に恭弥と同じ風紀の腕章をつけて「風紀委員」準備完了。
・・・なんというか普通の一般家庭的なお家。
本当にここに死体があるのってああっ!!

「ちょ、きょっ・・・」

何、人様の塀にのぼっちゃってんの!?
何、人様の家の屋根にのぼっちゃって・・・2階から進入すんの!?

「・・・何してんの、早くきなよ」
「って私もいくんか!」


















「やぁ」
「ヒバリー!!!」

明らかに歓迎されてないよ恭弥。
なぜだ。呼んだのは彼らじゃないのか。
ちらりと彼の肩越しに部屋の中をのぞいたが、確かに死体(らしきもの)はある。

「今日は君たちと遊ぶために来たわけじゃないんだ」

といいながら、土足で踏み込む恭弥。
いいの?いいんですか?
日本家屋は土足禁止じゃなかったっけ?
という小さくて大きい疑問をもんもんと胸の中に抱きながらも、彼の右斜め後ろを歩く。
もちろん恭弥が土足なので、土足で。

「赤ん坊に貸しを作りにきたんだ」

ま、取引だね。と軽く言う恭弥の視線は、どうやら拳銃で心臓を撃ち抜かれているらしい成人男性の死体に注がれている。
というか、赤ん坊に貸しってなんだろう、と視線を少し動かすと足元から「ちゃおっす」という幼い声が聞こえた。
下を向くと、黒いスーツに黒い帽子の、確かに「赤ん坊」と表現したほうが的確な年齢だと思われる子供。
そういえば最近「面白い赤ん坊がいる」と恭弥がうれしそうに語っていたのを思い出した。
ああ、コレがそうなのかと思いながら「チャオ」と返してあげる。

「待ってたぞヒバリ」

その赤ん坊の声にチラリと目線だけで返した彼は、死体の外的検分が終わったのか「ふーん」とつぶやいた。

「やるじゃないか、心臓を一発だ。・・・

小声で呼ばれ、そのままスッと彼の右横へ移動する。
そのまま小声で「今処理?」と返したが彼は軽く頭を振った。

「時間なくなるでしょ」
「あ、そか。じゃあ他の人に連絡する」

彼に買ってもらった携帯をズボンのポケットから取り出して、とりあえずは草壁の番号を呼び出す。
こういう場合はまず彼に連絡を取って人選してもらうほうが早い。

『・・・はい』
「あ、草壁?だよ、おはよー」
『おはようございます。どうかしましたか?』
「うん、ちょっと今から言う住所に何人かよこしてほしいんだけど」
『・・・何かの処理ですか?』
「うん。動かないほうの処理。数は1」
『わかりました。何人か見繕います』
「よろしく。住所は」

その様子を横目で確認したらしい恭弥は、赤ん坊に視線をやって、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「うん、この死体は僕が処理してもいいよ」
「なっ!!!はあ〜〜〜〜っ!!?何いってんの〜〜〜!!?」

僕がっていうか、風紀が、だけど。
まあ恭弥=風紀ってことでひっくるめて"僕"なんだろうか。
確かに風紀は恭弥の私物だしと思いながら、軽く息を吐いて携帯をきった。

「何人か見繕ってくれるって」
「ん」

彼は軽くうなづくとくるりと窓のほうに方向転換して、そのまま窓枠に足をかけた。

「じゃああとで、風紀委員の人間よこすよ」
「・・・おじゃましました」

彼らの「委員会で殺しもみ消してんの〜〜〜〜!!?」という声を背中で聞きながら、さっきと同じ要領でバイクのところまで戻る。
ああ、でもたしかにその感想は間違ってないよ少年少女たち(たぶんそんなに年齢変わらないだろうけど)
普通はしないよね、もみ消し。
でもこの町の治安は風紀委員は取り締まってるし。
ヤクザも警察も形無しだし、仕方ないんだよ。なんて、死体のあった一般家庭の家屋の2階を見ながら遠い目をしてみる。

「って・・・」

なんかダイナマイト的なものを銀髪少年が振りかぶって投げたんですが!!
さすが死体の出ちゃった家なだけあるのか。ただじゃ帰らせないとでもいうのか。
ていうか処理するのはこっちなんだからその態度はないだろう・・・。

「―――【聖斧―ミョルニール―】!!」

巨大な斧が現れる。
もう二度とあらわすことはないと思っていたのに。
ギュッと斧の柄を握りこんで、少しばかり目を見開いた恭弥とダイナマイトの間に立ち入り、斧を横なぎに払った。
何本かは衝撃風で火が消し飛び、何本かは衝撃波で家屋の2階へ跳ね返りそのまま爆発。(瞬間「うそーーーっ!!」という悲痛な叫びが聞こえた気がした。南無惨)

「・・・いいのに」

ちょっとムスッと膨れている彼に苦笑して「ごめん、つい」と返したらため息をもらってしまった。
そのままヘルメットを投げてよこされて、後ろに座れ、と恭弥は彼が座っている座先の後ろをぽんぽんとたたく。
それに笑って駆け寄って、勢いよく座り込むと同時に、バイクは発進した。





あの斧が何なのか、とか。
どこから出したのか、とか。
何でだせるのか、とか。





きかない彼に感謝して。
言わない私は軽くまぶたを下ろす。

「恭弥」

風がゴウゴウと横を通り過ぎて、聞こえないかもしれないけれど。

「わかったら、ちゃんと、言うから、ね」

彼のヘルメットをかぶった頭が、少しだけ後ろを向いた気がした。